初版発行日 1994年7月25日
発行出版社 中央公論新社
スタイル 長編
私の評価
南紀、東京、草津、広域殺人に十津川警部の決断は!?
あらすじ
十津川警部の部下三田村刑事は、殺人罪で服役中の父親を持つ娘、久美を愛してしまった。複雑な思いを抱いて旅に出た二人は、彼女の故郷南紀で殺人事件に遭遇。駅の対号室で男が刺殺されたのだ。久美の正確な観察と記憶で、警察は被害者の仲間とおぼしき二人を割り出す。しかし、その一人も殺害され、さらには久美までもが謎の失踪を遂げてしまった。焦燥の三田村に十津川が示した推理とは。
小説の目次
- 接点の駅
- 旅行好きの男
- 三月二十四日夜
- 失踪
- 草津雪景色
- 再検討への旅
- 真犯人
冒頭の文
警視庁捜査一課の三田村刑事が、恋をした。
小説に登場した舞台
- 名古屋駅(愛知県名古屋市中村区)
- 賢島駅(三重県志摩市)
- 志摩マリンランド(三重県志摩市)
- 志摩市歴史民俗資料館(三重県志摩市)
- パールロード(三重県志摩市)
- 的矢湾大橋(三重県志摩市)
- 麻生の浦大橋(三重県鳥羽市)
- 鳥羽駅(三重県鳥羽市)
- 快速みえ号
- 多気駅(三重県・多気町)
- 特急南紀
- 新宮駅(和歌山県新宮市)
- 那智の滝(和歌山県・那智勝浦町)
- 熊野那智大社(和歌山県・那智勝浦町)
- 紀伊勝浦駅(和歌山県・那智勝浦町)
- 特急くろしお号
- 白浜駅(和歌山県・白浜町)
- 白良浜(和歌山県・白浜町)
- 千畳敷(和歌山県・白浜町)
- 三段壁(和歌山県・白浜町)
- 南紀白浜空港(和歌山県・白浜町)
- 上野駅(東京都台東区)
- 特急草津号
- 長野原草津口駅(群馬県・長野原町)
- 草津温泉(群馬県・草津町)
- 西の河原(群馬県・草津町)
- 軽井沢(長野県・軽井沢町)
- 府中刑務所(東京都府中市)
- 鳥羽市街(三重県鳥羽市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。恋人の本橋久美と南紀勝浦へ旅行をしていたところ、殺人事件に巻き込まれる。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中大輔:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 長谷部:
三重県警の警部。 - 三浦:
和歌山県警の刑事。 - 加東:
長野県警の警部。
事件関係者
- 本橋久美:
三田村刑事の恋人。R大学に通う大学生。世田谷区代田のマンションに在住。父親は殺人罪で服役中。 - 本橋吾一:
53歳。本橋久美の父親。紀伊勝浦にあるクリーニング店の店主。松田重太郎殺人容疑で逮捕され、府中刑務所に服役中。 - 松田重太郎:
53歳。紀伊勝浦にあるS信用金庫副理事長。今年の3月に勝浦海岸で死体が発見された。 - 土屋悟:
31歳。世田谷区深沢のマンションに在住。新宿西口に本社のあるK電機販売三課の係長。多気駅の待合室で死体となって発見された。 - 小寺信成:
35歳。フリーライター。雑誌『旅のフレンド』の定期購読者。自宅マンションで死体となって発見された。 - 星野勇紀:
売れないタレント。土屋悟、小寺信成とともに南紀勝浦へ旅行していた3人の一人。三田村刑事と本橋久美が車で尾行中、軽井沢で車の中で殺されていたのが発見された。 - 晴美:
紀伊勝浦にあるスナック「はるみ」のママ。 - 寺岡保太郎:
45歳。ニュー勝浦ホテルの社長。ニュー草津ホテルも経営している。元プロ野球選手。晴美の愛人。
その他の登場人物
- 高橋:
K電機販売三課の課長。土屋悟の上司。 - 山口アキ子:
25歳。目黒駅近くに在住。母親が営む美容院を手伝っている。土屋悟と見合いをしていた。 - よう子:
紀伊勝浦の中の島ホテルの仲居。 - 浜口勇:
K電機札幌支社に勤務。土屋悟の友人。 - 山岸:
新宮駅近くに事務所を構える弁護士。松田重太郎殺害事件の裁判で本橋吾一の弁護をした。 - 岩本:
紀伊勝浦にある土産物店の店主。スナック「はるみ」の常連客。 - 林:
紀伊勝浦のタクシー運転手。スナック「はるみ」の常連客。
印象に残った名言、名表現
(1)的矢湾大橋。
朱色の美しい橋である。眼下に、リアス式の的矢湾が広がり、吹きあげてくる風が強い。橋の袂に、吹流しがあるのは、風力を知らせるためだろう。
(2)千畳敷と三段壁。
千畳敷は、波に侵食された岩盤が、幾重にも重なるようにして、広がり、それが、千畳もあるといわれる海岸である。
三段壁は、千畳敷の近くで、高さ五十メートルの切り立った絶壁で、有名である。
(3)三田村刑事の自責の念。
久美が好きだ。愛している。そんくせ、彼女の父親が、刑務所に入っていることに、心のどこかで、引っかかっていたのは、否定できないからだ。
(4)草津温泉湯畑。
温泉街の真ん中の、広場のようなところに、この草津温泉の源泉があり、吹き出る熱湯を、幾条もの木の樋に流し、その樋につく湯の花を、採取しているのである。
感想
緊迫感と臨場感あふれる、サスペンスフルな作品だった。
本作は、三田村刑事が恋をし、結婚を申し込んだ本橋久美と、南紀勝浦へ旅行へ出かけたことが発端となった。
序盤は、三田村刑事と本橋久美の旅が、旅情と愛情たっぷりに描かれる。伊勢志摩から那智勝浦にかけての観光スポットが登場し、旅気分を味わえる。
そして、三田村刑事の恋心が丁寧に描かれているのも、おもしろい。恋心が描かれるのは、十津川警部シリーズの中でも珍しい作品であるだろう。
この三田村刑事の恋心が、捜査を進展させ、また停滞もさせたのだ。
今は、頭の中が、久美のことで、一杯になってしまっている。愛で一杯になっているのなら、悩むことはないのだが、違うのだ。愛、不安、怒り、など、さまざまな感情が、入り乱れている。
若さゆえに、割り切れない。冷静に事件をみつめられなくなってしまっているのだ。三田村刑事のこうした葛藤と苦悩を、自分に置き換えてアレコレと想像しながら読むと、より面白いだろう。
前半の旅情&愛情の物語から一転、後半はサスペンスフルな展開になる。
ジリジリと犯人に近づいていく緊張感は十津川警部シリーズならではである。そして、大どんでん返しも用意されている。
この先は自分で読んで確かめてもらいたいが、本当に完成度の高いミステリーだったと思う。
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