初版発行日 1999年8月28日
発行出版社 角川春樹事務所
スタイル 長編
私の評価
不可思議な謎に挑む、十津川警部の推理は果たして―。
あらすじ
中央サウンドの戸田琢二は、テレビやラジオなどのBGMに使用するための、代表的な「日本の風」の音が欲しいという依頼を受け、京都の竹林を吹き抜ける風、鳥取砂丘に風紋を作る風を録音した。ところが、なぜかそのすべてに女性の悲鳴がはいっていたのだ。そして鳥取砂丘で女性の他殺体が発見され、戸田はその犯人として容疑をかけられてしまうのだが……。
小説の目次
- 竹の囁き
- 砂の音
- 三月の風
- 伊豆恋人岬
- 二つの事件の間
- 最後の音声
冒頭の文
録音機器を積んだワゴン車で、京都に入ったのは、二月五日だった。三日前に、京都に雪が降っている。
小説に登場した舞台
- 渡月橋(京都府京都市右京区)
- 湯豆腐 嵯峨野(京都府京都市右京区)
- 野宮神社(京都府京都市右京区)
- 城崎温泉(兵庫県豊岡市)
- 但馬海岸(兵庫県・香美町)
- 香住海岸(兵庫県・香美町)
- 鳥取駅(鳥取県鳥取市)
- 鳥取砂丘(鳥取県鳥取市)
- 砂丘センター(鳥取県鳥取市)
- 直指庵(京都府京都市右京区)
- 熱海(静岡県熱海市)
- 伊東(静岡県伊東市)
- 下田(静岡県下田市)
- 恋人岬(静岡県伊豆市)
- 猫崎岬(兵庫県豊岡市)
- 東山温泉(福島県会津若松市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中大輔:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 片山明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 三浦:
鳥取県警の警部。 - 吉田:
鳥取県警の刑事。 - 石野:
京都府警の警部。 - 中村:
警視庁の技官。
事件関係者
- 戸田琢二:
35歳。中央サウンドの技師。東京都調布市のマンションに在住。 - 真田みどり:
23歳。東京都杉並区下高井戸のマンションに在住。鳥取砂丘で死体となって発見された。 - 仁科久美:
19歳。短大生。山口県東萩市内のマンションに在住。練馬区の石神井公園内にある諏訪稲成神社の境内で死体となって発見された。 - 小林凛子:
森大介の元妻。目白にある雑貨店を営む。行方不明になった後、竹野海岸の猫崎岬で死体となって発見された。 - 三田アキ:
20歳。小林凛子が営む雑貨店で働いていた女性。現在、行方不明。 - 楠あゆみ:
23歳。フリーター。武蔵野市西久保の自宅マンションで殺されていた。 - 佐々木晴美:
20歳。東京在住の女性大生。行方不明になり捜索願が出ていた。竹野海岸の猫崎岬で死体となって発見された。 - 森大介:
35歳。資産家の息子。 - 清水伍郎:
36歳。旅行作家。
その他の登場人物
- 真田健:
49歳。真田みどりの父親。サラリーマン。 - 真田京子:
45歳。真田みどりの母親。専業主婦。 - 田島:
中央放送の効果係。 - 新堂圭介:
旅行作家。清水伍郎の仲間。 - 山中恵一郎:
カメラマン。清水伍郎の仲間。 - 酒井:
弁護士。清水伍郎の大学時代の同級生。 - 北野くみ子:
23歳。不動産会社のOL。楠あゆみの短大時代の同級生。 - 牧ユミ:
23歳。フリーター。楠あゆみの短大時代の同級生。 - 崎田亜紀:
23歳。池袋にある実家のレストラン「ナポリターナ」の手伝い。楠あゆみの短大時代の同級生。
印象に残った名言、名表現
(1)夏暑く、冬寒い、京都。
京都は、盆地だから、夏になると、ばったりと風が吹かなくなる。夏の京都の風物詩として、川に床を張り出して、涼しそうに食事をしている料亭の写真がよく出るが、実際には、意外に暑い。風が吹かないからだ。
逆にというわけではないが、冬の京都は、冷たい風が、強く吹く。
(2)音の記憶。
戸田が、子供の頃、朝目が覚めると、母親の音が聞こえたものだった。たいていは、包丁で、野菜を刻む音だった。マナイタに、包丁が当る音が、コトコトひびいてくる。
小さな家だったから、障子の向うから、はっきりと聞こえてくるのだ。朝、その音が、聞こえると、安心したものだった。
感想
本作は、風の音がテーマという、一風変わった殺人事件であった。
京都の嵯峨野の竹林、山陰の海岸、鳥取砂丘。自然豊かな場所で聞こえてくる、豊かな音色が、本書を読んでいる自分にも聞こえてくるような、そんな感覚になる。読んでいて、心地よいのだ。
殺人事件で緊張があるはずなのに、なぜか、心地よい。本作は、全体的に、そんな印象である。
事件の発端も”風の音”であり、捜査の決め手になったのも、”風の音に隠れた音”であった。ここまで、心地よい読後感を与えてくれる、殺人事件も珍しい。十津川警部シリーズの中でも、珍しい部類に入ると思う。
最後に、西村京太郎先生のことばを紹介しておこう。
日本は、海に囲まれ、山地が大部分を占めている。
その結果、水に恵まれていると同時に、風にも、恵まれている。それも、日本的な風の音にである。
竹林のゆれる音、風鈴の音、冬の荒々しい風の音。エトセトラ、エトセトラ。
風の音は、私たちに、豊かな気分を与えてくれるが、同時に、その音は、何かを隠してしまう。例えば、殺された人間の悲鳴をである。
また、激しい風の音は、殺人者の殺意をかき立てるかも知れない。この作品は、風にまつわる殺人の話である。
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