初版発行日 1996年7月1日
発行出版社 文藝春秋
スタイル 長編
私の評価
二発の銃声とともに途切れた旧友からの電話。旧友はやはり殺されていた……。十津川は真相を求め北海道、さらにフィリピンに飛ぶ!
あらすじ
十津川警部の自宅に深夜かかってきた大学時代の友人・永田からの電話は、突然の二発の銃声とともに途切れた。銃声はロシア製のトカレフのものだった。「トカレフを持った殺人鬼」は永田なのか?旧友の安否を気づかう十津川は、北海道、そしてフィリピンへと追跡を続ける。
小説の目次
- 銃声で始まった
- もう一つの事件
- 洞爺湖
- ボランティア
- トワイライトエクスプレス
- 白い世界へ
- ニセコ
- 雪の教会
- マニラ
- 友への挽歌
冒頭の文
電話のベルで叩き起こされて、十津川は手を伸ばしながら、枕元の時計に眼をやった。午前二時三十分。
小説に登場した舞台
- 府中刑務所(東京都府中市)
- 千歳空港(北海道千歳市)
- 札幌駅(北海道札幌市北区)
- 定山渓温泉(北海道札幌市南区)
- 洞爺湖畔(北海道・洞爺湖町)
- 洞爺湖温泉(北海道・洞爺湖町)
- 洞爺駅(北海道・洞爺湖町)
- 羽田空港(東京都大田区)
- 関西国際空港(大阪府泉佐野市)
- 大阪駅(大阪府大阪市北区)
- トワイライトエクスプレス
- 敦賀駅(福井県敦賀市)
- 新津駅(新潟県新潟市秋葉区)
- 青森駅(青森県青森市)
- 苫小牧駅(北海道苫小牧市)
- ニセコ駅(北海道・ニセコ町)
- ニセコアンヌプリ国際スキー場(北海道・ニセコ町)
- 成田空港(千葉県成田市)
- マニラ国際空港(フィリピン)
- マニラ市街(フィリピン)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 十津川直子:
十津川警部の妻。 - 三浦:
北海道警の警部。 - 佐伯:
科研の技官。 - 井原要:
東京入国管理局成田空港支局長。 - 山崎:
千葉県警の警部。 - 柳沼勝平:
入国管理官。半月前、車の中で射殺された。
事件関係者
- 永田勇作:
札幌にある中央旅行社に勤務。十津川警部の大学時代の同級生。ラグビー部に在籍していた。洞爺湖でバラバラ死体となって発見された。 - 早瀬卓:
フリーカメラマン。十津川警部の大学時代の同級生。十津川宛に送られてきた北海道の航空券で十津川の代わりに札幌へ行くことに。 - 早瀬友美:
早瀬卓の妹。 - 下島やよい:
35歳。池袋にあるバー「やよい」のママ。札幌出身。お店で何者かに射殺された。 - 小野田清:
45歳。札幌にある中央旅行社の社長。西新宿のNホテルで射殺される。 - 内藤茂:
麹町にある「日比愛の鎖」の理事長。日本とフィリピンの政財界に強い影響力をもつ。 - 小野:
内藤茂の秘書。 - 高良:
内藤茂の秘書。 - J・ロドリゲス:
マニラにある警備保障会社の社長。元マニラ警察の署長。 - 古屋亜木子:
フィリピンの実業家と結婚しマニラ郊外の豪邸に在住。 - サントス:
マニラにある雑誌社の記者。何者かに殺害される。
その他の登場人物
- 吉井宏:
K自動車の企画部に勤務。十津川警部の大学時代の同級生。 - 金子由美:
28歳。バー「やよい」のホステス。 - 菊池克郎:
35歳。下島やよいと同棲していた男。元S組の組員で現在は府中刑務所に服役中。 - ケンジ:
9歳。内藤茂がフィリピン人女性との間にもうけた子供。 - ミドリ:
6歳。内藤茂がフィリピン人女性との間にもうけた子供。 - 風見:
洞爺湖畔にある教会の神父。 - 柴田:
マニラにある日本大使館の書記官。
印象に残った名言、名表現
(1)トワイライトエクスプレスからみた北海道の雪景色。
窓の外は、文字通り白一色の世界である。しかし、天気は不安定で、さあっと陽が射したかと思うと、急に曇って粉雪が舞い出す。
(2)十津川は警察官の限界も知っている。
「警察の力なんて、たかが知れているよ。サラリーマンだし、法律に従って動くより仕方がないんだ」
感想
本作は、十津川警部の大学時代の同級生が2人登場し、1人が事件に関わり、もう1人が事件に首を突っ込んで、2人とも殺されてしまった。十津川警部にとっては、つらい事件だったと思う。だから、本作のタイトルが「友への挽歌」なのだろう。
謎の連続狙撃事件からはじまって、次第にその背景が見えてきて、最終的には、フィリピン政府の転覆を狙っていたという、非常に大きな事件としての姿が見えてくる、この流れは圧巻だった。
また、北は北海道から南はフィリピンまで。日本全国、さらには海外まで足をのばすそのダイナミックさも見事であった。
トワイライトエクスプレス内での息詰まる捜査、ニセコアンヌプリ国際スキー場という一面銀世界での攻防。見ごたえのあるシーンも数多くあった。
そして、作品全体に漂う緊張感。これこそ、十津川警部シリーズの真骨頂だと思う。真骨頂にふさわしい作品であった。
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