初版発行日 1982年11月25日
発行出版社 角川書店
スタイル 長編
私の評価
寝台特急「紀伊」、特急「あさしお」を使った巧妙なトリックの陰に隠れた真犯人の正体は?十津川、亀井の名コンビが怪事件に挑む!!
あらすじ
中西は高校生の時、高野山で女性を襲い、自殺に追いやった。それから十年ー。二十七になった中西は両親の遺骨を納めるため、懐かしくも忌わしい故郷南紀を訪れるが……。奇妙な脅迫と警告。連続して起こる十年前の関係者の怪死。婚約者の失踪。舞台は東京、南紀、京都、そして山陰へ。
小説の目次
- 帰郷
- 寝台特急「紀伊」
- 法然寺
- 吊橋
- 列車編成の謎
- 上田城警察署
- 九年目の帰郷
- 特急「あさしお8号」
- 支配者
- 崩壊
冒頭の文
中西明は、故郷の南紀を出て、十年目に、相ついで、父と母を失った。彼の二十七歳の時である。
小説に登場した舞台
- 新宿駅(東京都新宿区)
- 東京駅(東京都千代田区)
- 寝台特急「紀伊」
- 難波駅(大阪府大阪市中央区)
- 極楽橋駅(和歌山県・高野町)
- 高野山(和歌山県・高野町)
- 新宮駅(和歌山県新宮市)
- 那智駅(和歌山県・那智勝浦町)
- 紀伊勝浦駅(和歌山県・那智勝浦町)
- 特急「紀州2号」
- 名古屋駅(愛知県名古屋市中村区)
- 亀山駅(三重県亀山市)
- 京都駅(京都府京都市下京区)
- 急行「丹後3号」
- 綾部駅(京都府綾部市)
- 橋本駅(和歌山県橋本市)
- 和田山駅(兵庫県朝来市)
- 城崎温泉(兵庫県豊岡市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 小川:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
和歌山県警
- 伊地知一郎:
新宮警察署の刑事。 - 浜村:
新宮警察署の署長。 - 山口:
綾部警察署の署長。
事件関係者
- 中西明:
27歳。東西商事の社員。明大前に在住。上田城生まれ。高校生の時、浅井由美子を襲い自殺に追いやった。 - 浅井由美子:
当時23歳。上田城町役場の事務員。 - 小沼真紀:
中西明の婚約者。K銀行の行員。新宮まで来る予定だったが、行方不明になる。 - 浅井大造:
上田城にある浅井園芸の社長。浅井由美子の父親。自宅で死体となって発見された。 - 浅井一郎:
浅井大造の息子。京都のアパートに在住。浅井園芸の地中に死体となって埋められていた。 - 工藤真一郎:
中西明の高校時代の友人。上田城町役場に勤務。 - 新井法胤:
75歳。法然寺の和尚。お寺で死体となって発見された。 - 金子信介:
浅井一郎の友人。東福寺近くのアパートに在住。建設会社に勤務。5年前、傷害致死事件を起こし5年の服役を経て出所していた。特急「あさしお8号」の車内で死体となって発見された。 - 富永賢二:
当時30歳。上田城町役場の職員。5年前、金子信介と喧嘩になり刺殺された。 - 富永徳太郎:
富永賢二の父親。上田城町の町長。
その他の登場人物
- 古沢弘子:
中西明の高校時代の同級生。上田城町会の議長の娘。秘書をしている。 - 林卓郎:
中西明の高校時代の同級生。上田城町で雑貨店を営む。 - 井上計:
中西明の高校時代の同級生。叔父の会社「上田物産」で会計の仕事をしている。 - 大久保健:
中西明の高校時代の友人。 - 飯田憲太郎:
浅井一郎の友人。 - 清沢ふみ子:
金子信介の恋人。 - 石川悠之:
和歌山市内に事務所をかまえる税理士。浅井由美子の婚約者だった。 - 榊原涼子:
橋本駅前にあるブティック「ピノキオ」のオーナー。富永賢二の元妻。 - 水田伍郎:
和田山交通のタクシー運転手。
印象に残った名言、名表現
■町の閉鎖性。
町というのは、どんな町でも、多少は、閉鎖性がある。そして、何年かぶりに帰る故郷というのは、どこか、他所他所しいものだ。故郷の町のせいもあるし、こちらが、いつの間にか、変ってしまっているせいもある。
感想
本作は、3つのポイントがある。
1つ目は、亀井刑事と小川刑事の活躍である。
本作では、十津川警部はほとんど登場しない。南紀白浜に行き活躍するのは、亀井刑事と小川刑事である。御存知の通り、亀井刑事は十津川警部の右腕であり唯一無二の相棒である。「カメさん」の相性で親しまれている。
また、小川刑事は十津川警部シリーズの初期によく登場する刑事である。「カワさん」と呼ばれており、十津川警部は亀井刑事と並ぶ、右腕として信頼していた。
今回は、カメさんとカワさんがコンビを組んで活躍した作品なのだ。シリーズ全体でみても珍しい作品である。
2つ目は、田舎の閉鎖性をよく描いていたことである。
本作の舞台は、和歌山の南紀にある「上田城町」。この町は架空の町である。そして、和歌山の山中にある小さな町という設定だった。
小さな町では、小さな町の論理がある。人間関係がある。これらは、この小さな町で生きていく上で絶対なのである。この閉鎖的な論理が、今回の事件の根幹にあったと思う。
3つ目は、列車を使ったアリバイトリックである。列車トリックは十津川警部シリーズの真骨頂であり、今回も、この列車トリックのアリバイ崩しが犯人逮捕の決め手となった。
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