初版発行日 2015年1月20日
発行出版社 実業之日本社
スタイル 長編
連続殺人の謎を解く鍵は終戦記念日に!?知られざる歴史の闇に十津川警部が挑む!
あらすじ
都内のホテルで八月十四日の深夜に殺された女性は、伊勢神宮に吟行の旅に出かけていた有名な俳句の先生だった。手掛かりも動機も見えない殺人事件に捜査は難航を極める。しかし、十年前に「八月十八日の殺人」と呼ばれる事件が起きていたとの情報があり、十津川警部は京都へ。さらに二十年前も「八月十八日の殺人」が……事件の真相には戦争の影が!?
小説の目次
- 伊勢参り行
- 三条河原町
- 八回目の八月十五日
- 玉音放送の日
- 二千三百人の死
- 殺人者の顔
- 戦争その理不尽なるもの
冒頭の文
その日の午前十時過ぎ、都内のMホテルから一一〇番があって、十津川たちが、急行した。
小説に登場した舞台
- 京都駅(京都市下京区)
- 三条河原町(京都市中京区)
- 熊谷市(埼玉県熊谷市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
事件関係者
- 田中彩女:
本名は田中澄子。有名な俳句の先生。60歳。神奈川県茅ヶ崎市在住。都内のMホテルで刺殺される。 - 金杉敬:
京都の大学教授。10年前、ホテルの部屋で殺される。 - 浅井雄二:
逗子海岸のライフセーバーの隊長。20年前、逗子海岸で死体として発見される。 - 宇垣史郎:
54歳。東京の下町で工場を経営していた。北沢美紀のファンだった。30年前に何者かに殺された。 - 水原:
アサヒ工業の重役。1955年8月15日に何者かに殺される。
その他の登場人物
- 真田健一:
ホトトギス派要会の事務局長。65歳。 - 田中啓介:
田中彩女の夫。電機メーカーの営業部長。 - 牧原由美:
田中彩女の親友。俳人。出版社に勤務している。 - 渡辺和俊:
70歳。三軒茶屋の商店街でそば屋を営んでいる。要会の会員。 - 岩美和子:
45歳。要会の会員。 - 寺西:
京都府警の警部。 - 古川:
京都放送のアナウンサー。 - 浅野:
京都観光協会の事務局長。 - 園田:
神奈川県警の警視。県警本部の副本部長。 - 遠藤:
80歳。元逗子市長。 - 北沢美紀:
タレント。29年前にガンで亡くなる。 - 沢口:
アサヒ工業の社長。 - 剣崎:
N大学の教授。日本の近現代史に詳しい。 - 栗本信二:
71歳。東京の下町で印刷工場を営んでいる。 - 栗本秋子:
61歳。栗本信二の妻。 - 小室洋介:
76歳。三鷹市内で自動車修理工場を営んでいる。 - 小原剛:
60歳。評論家。 - 津久井由美:
S大学の教授。 - 殿村正幸:
若手の評論家。 - 小田:
中央テレビのプロデューサー。 - 中村:
中央テレビの女性アナウンサー。
印象に残った名言、名表現
■「終戦の詔書」の冒頭文。
「朕深ク世界ノ大勢ト帝国ノ現状トニ鑑ミ、非常ノ措置ヲ以テ時局ヲ収拾セムト欲シ、茲二忠良ナル爾臣民二告グ。朕ハ帝国政府ヲシテ米英支蘇四国二対シ、其ノ共同宣言ヲ受託スル旨通告セシメタリ」
感想
本作は、太平洋戦争が終わった昭和20年8月の出来事。その歴史に迫るストーリーである。確かに、事件が起こり、太平洋戦争から続く怨念が事件を生み出し、犯人がいて、逮捕される。一つのミステリーとして完結している。
だが、本筋、もっとも伝えたいメッセージは、太平洋戦争についてだと思う。
現代の日本人のほとんどは太平洋戦争を経験していない。もちろん私もだ。そのため、戦争は学校の授業という媒体で習う。私も含め、ほとんどの人は、昭和20年8月6日に広島に原爆が落とされ、8月9日に長崎に原爆が落とされた。さらに、ソ連が侵攻してきて、8月15日に玉音放送が流されて、敗戦した。という認識でしなかい。
まず、「戦争が終わったのが昭和20年8月15日だ」という認識が間違っている。ポツダム宣言を受託したのは、8月14日であり、玉音放送が流され国民が敗戦を知ったのが8月15日であり、実際に戦争が終わったのは、9月2日である。
私は本書を通じて、はじめてこの事実を知った。この他にも、ポツダム宣言の発表後、日本の政府内でどんな事が起きていたのか?なぜ玉音放送は8月15日だったのか?などが詳細に記されている。この本は、日本人が知っておくべき太平洋戦争の歴史書でもあるのだ。
最後に、太平洋戦争を実際に経験した西村京太郎先生。
戦争で家族を失い、わが町が焼け野原になり、敗戦を知らされた時、日本人が、ほんとうはどんな気持ちだったのか?何を願ったのか?
それは、現代のわたしたちが”学校で習う”認識と、大きくかけ離れているのではないか?当時と現代を知る西村京太郎先生は、その違いを知っているはずである。そして、当時の日本人の思いを、この作品に散りばめたのではないか?
本書を読んだ私は、そう考えるのである。
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