初版発行日 1999年3月20日
発行出版社 新潮社
スタイル 長編
私の評価
次第に明らかになってゆく、新興宗教団体の狂気と闇。貴船、清水、祇園祭。古都をあざやかに描く、旅情豊かなトラベルミステリー。
あらすじ
休暇で京都を訪れた十津川警部が、愛宕念仏寺で見かけた寂し気な美女。幼子の石仏を一心不乱に見つめていた女は、「私は、彼を殺します」というメッセージを残して、姿を消した。必死になって彼女を探す十津川。だが、女は嵯峨野の竹林で、死体になって発見された。そして、その身元を知る男が、警視庁に向う途中に殺される……。
小説の目次
- 嵯峨野にて
- 竹林の風
- 貴船 火の狂宴
- 湯の花温泉
- 清水寺
- 鴨川
- 祇園祭
冒頭の文
警視庁捜査一課の十津川警部は、月一回、一日か二日行方不明になる。
小説に登場した舞台
- 東京駅(東京都千代田区)
- 京都駅(京都府京都市下京区)
- 祇園(京都府京都市東山区)
- あだし野念仏寺(京都府京都市右京区)
- 愛宕念仏寺(京都府京都市右京区)
- 嵯峨野(京都府京都市右京区)
- 大沢池(京都府京都市右京区)
- 直指庵(京都府京都市右京区)
- 渡月橋(京都府京都市右京区)
- 広沢池(京都府京都市右京区)
- 野宮神社(京都府京都市右京区)
- 嵐山駅(京都府京都市右京区)
- 西山艸堂(京都府京都市右京区)
- 祝田橋(東京都千代田区)
- 皇居外苑(東京都千代田区)
- 二重橋(東京都千代田区)
- 貴船神社(京都府京都市左京区)
- 満亭(京都府京都市中京区)
- イノダコーヒ コーヒーサロン支店(京都府京都市下京区)
- 湯の花温泉(京都府亀岡市)
- 翠泉(京都府亀岡市)
- 八坂通(京都府京都市東山区)
- 産寧坂(京都府京都市東山区)
- 清水寺(京都府京都市東山区)
- 忘我亭(京都府京都市東山区)
- 石塀小路(京都府京都市東山区)
- 新京極(京都府京都市中京区)
- 総本家にしんそば 松葉本店(京都府京都市東山区)
- 四条大橋(京都府京都市東山区)
- 関西国際空港(大阪府泉佐野市)
- 鞍馬(京都府京都市左京区)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 石野:
京都府警捜査一課の警部。 - 吉田:
京都府警捜査一課の刑事。 - 河原:
京都府警の本部長。 - 今井:
京都府警の技官。
新興宗教「真言密教十条寺派」
- 岡部ゆみ:
新宿にあるクラブのホステス。杉並区和泉のマンションに在住。新興宗教「真言密教十条寺派」の信者。京都・嵯峨野の竹林で死体となって発見された。 - 松岡功:
35歳。新興宗教「真言密教十条寺派」の本院広報課長。京都在住。東京出身。 - 小林:
新興宗教「真言密教十条寺派」の元信者。皇居外苑のトイレで死体となって発見された。 - 小松猛:
新興宗教「真言密教十条寺派」の信者。青年部に所属。 - 進藤一郎:
新興宗教「真言密教十条寺派」の信者。青年部に所属。 - 長田信哉:
新興宗教「真言密教十条寺派」の信者。青年部に所属。 - 秋元弘:
25歳。新興宗教「真言密教十条寺派」の信者。青年部に所属。 - 吉村めぐみ:
新興宗教「真言密教十条寺派」の信者。青年部に所属。 - 柴田:
新興宗教「真言密教十条寺派」の幹部。愛宕念仏寺の近くで死体となって発見された。 - 矢木:
新興宗教「真言密教十条寺派」の幹部。 - 新島仁:
新興宗教「真言密教十条寺派」の元信者。 - 羽田ひろみ:
新京極通りにある喫茶店の娘。新興宗教「真言密教十条寺派」の元信者。
事件関係者
- 高木亜木子:
38歳。新宿にある法律事務所で働く弁護士。世田谷区上北沢のマンションに在住。 - 相沢圭一郎:
56歳。京都の医師。趣味で石仏を彫っている。桂川の河原で焼死体となって発見された。
その他の登場人物
- 小林:
S交通のタクシー運転手。 - 相沢京子:
相沢圭一郎の妻。 - 大野木:
60歳。筆跡鑑定の専門家。 - 仁科しのぶ:
岡部ゆみの短大時代の友人。
印象に残った名言、名表現
(1)違う景色を見る。
一月の中の一日か二日、全く別の時間を持ちたいだけだった。
(2)毎日忙しく仕事をしている季節感がなくなる。
わざわざ旅に出なければ、青葉が眼に入らないのだ。いや、眼には入るのだが見ていない。楽しんでいない。
感想
本作は、新興宗教内部のゴタゴタが招いた殺人事件である。
1990年代後半は、オウム真理教事件に代表されるような、新興宗教が社会問題の一つになっていた。だから、時流にそった作品だったと思う。
そして、特筆すべきは、舞台となった京都のスポットが数多く登場したことであろう。これまで、十津川警部シリーズでは、京都を舞台とした作品を数多く刊行してきたが、その中でも、本作ほど、京都のスポットが登場した作品は多くない。
祇園、嵯峨野、四条通り、鴨川、清水寺をはじめとした京都の代表的なスポットはもちろんのこと、西山艸堂や満亭、イノダコーヒ、忘我亭、松葉など、京都で人気の飲食店も登場した。
京都在住の方なら、より身近な印象があるだろうし、京都在住以外の方にとっては、観光気分を味わえる。
最後に、殺人事件の現場になった嵯峨野の竹林について、臨場感たっぷりに描かれた表現があったので、その一節を紹介しておく。
嵯峨野の竹林は、この野宮神社から始まるとみていい。細い道の両側に竹林が広がる。いわゆる竹の道である。
細く長い竹が、天に向って伸びている。何千、何万本とも知れぬ竹。その真っすぐな幹も青いし、葉も青い。まるで緑のトンネルだ。
そして、竹の葉の風にそよぐ音。
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