初版発行日 2009年1月20日
発行出版社 新潮社
スタイル 長編
私の評価
余命三ヶ月の女が殺された!事件の根は、21年前、宮島で起きた”美しくも哀しい悲劇”にあった!?
あらすじ
ガンで余命三ヶ月と宣告された一乗寺多恵子が殺された。十津川警部は、彼女が最後の旅を計画していた、世界遺産の地・宮島に向かう。厳島神社の大鳥居をくぐる参拝遊覧船で起こった転落事故が、二十一年前の記憶を呼び起こしたとき、事件は意外な展開を見せる。
小説の目次
- 母の死
- ライトアップ
- 二十一年前
- 疑惑
- 美談と悲劇の間
- 愛の記念碑
- 事件の終わり
冒頭の文
私は、母の死期が近づいているのを、知った。
小説に登場した舞台
- 広島駅(広島県広島市南区)
- 宮島フェリー乗り場(広島県廿日市市)
- 宮島(広島県廿日市市)
- 紅葉谷公園(広島県廿日市市)
- 岩惣(広島県廿日市市)
- 厳島神社(広島県廿日市市)
- 天神社(広島県廿日市市)
- 宮島ロープウエー(広島県廿日市市)
- 弥山(広島県廿日市市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
事件関係者
- 一乗寺多恵子:
45歳。余命三ヶ月。何者かに刺殺される。 - 一乗寺渉:
作家。一乗寺多恵子の元夫。月島の超高層マンションに在住。 - 一乗寺明:
一乗寺多恵子の息子。大学生。 - 三浦亜樹:
一乗寺明の大学の女友達。 - 真田浩介:
宮島出身。M商事に勤務した後、東京の野口法律事務所で働いていた。当時の一乗寺多恵子の恋人。21年前、宮島からの観光船から落ち、一乗寺多恵子を助けようとして溺死した。 - 木下雄一郎:
元広島県議会の副議長。11年前に、死亡している。 - 木下勝郎:
38歳。広島県議会議員。木下雄一郎の息子。木下興行の社長。 - 八代栄:
28歳。木下勝郎の秘書。 - 椎名勉:
木下勝郎の秘書。
その他の登場人物
- 真田徳治:
61歳。真田浩介の父親。廿日市市のマンションに在住。 - 真田綾子:
54歳。真田浩介の母親。廿日市市のマンションに在住。 - 木下弘美:
32歳。木下勝郎の妻。 - 上田:
広島市内で経営コンサルタントを営む。元木下勝郎の秘書。 - 平井圭吾:
49歳。宮島連絡船会社の課長。真田浩介の親友だった。 - 野口:
75歳。21年前、真田浩介が働いていた当時の野口法律事務所の所長弁護士。現在は引退している。 - 寺内始:
80歳。寺内建設の元社長。21年前、一乗寺多恵子が働いていた当時の社長だった。 - 篠原英輔:
30歳。宮島にあるホテルのオーナー。 - 坂口:
50歳。広島県警の警部。 - 斉藤:
北千住駅前にあるSタクシーの運転手。 - 関口:
広島の個人タクシーの運転手。
印象に残った名言、名表現
(1)薄いアルバム。
私は、薄いアルバムを持ってきて、それを、亜樹に見せた。
母の四十五年間の生涯が、その薄いアルバムで、全て済んでしまうのだ。それが、いかにも、苦労しかなかったような母の人生を、あらわしているように、思えてならなかった。
(2)男女の違い。
「女性は、冷静に、的確に男を見定めているが、男は違う。勝手に自分で判断して、相手をこういう女性だと決めつけてしまう」
(3)男はロマンで女性を見てしまう。
「例えば、気の強そうな女性を見ると、本当は、優しいに違いない。その優しさを見破られるのがイヤで、わざと、勝ち気に振る舞っている。そんなふうに、男は、女を見てしまう。いや、そんな風に考えたがる。でも、たいていの場合は、間違っていると、書いてありました。気が強そうに見えるけど、本当は、優しいのだと、男は見てしまうけど、本当は、もっと、気が強かったりするんだそうですよ」
(4)息子から見た母。
生前の母は、私の目にはひたすら、もの静かで、我慢強くて、働き者という印象しかない。それが、独身時代は、活発で明るくて男にモテたに違いないといわれても、すぐには信じられなかった。
感想
21年前、宮島で起きた事故が発端となった殺人事件。
この事故は、海に落ちた彼女を救うために、海に飛び込んだ男が死亡してしまった、という事件だった。この事件について、十津川は、次のような印象をもっている。
「これは、悲劇であるが、同時に、美談でもあるんだ」
この美しも哀しい”愛の事故”に対する印象が、次第に、変わっていく。それは、打算的で、冷酷で、憎しみに満ち溢れたものになる。
本作は、この”印象の変化”が、なんとも面白い。権力者やマスコミによる、印象操作というものの、恐ろしさすら、感じてしまった。
また、本作の舞台となった宮島についても、旅情たっぷりに描かれていた点も良かった。
ちなみに、宮島が舞台になった作品は、2001年刊行の「東京発ひかり147号」がある。この作品も、宮島の観光面にスポットが当っているので、こちらもおすすめである。
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