初版発行日 1991年7月31日
発行出版社 光文社
スタイル 長編
私の評価
テロ組織との激しい攻防戦!待ち受ける大どんでん返し!
あらすじ
世界的巨大テロ組織「世界革命党」から警視庁に脅迫状がとどいた。「ヘイズが来日すれば必ず殺す!」しかし、イギリスの流行作家V・ヘイズは警告を無視し、ノブコ夫人と来日。同行したS・ヤードの辣腕刑事と十津川警部は、捜査方針で対立しながらも必死に警護にあたるが、寝台特急「さくら」で夫人が誘拐された!長崎駅で待ち受ける緊迫と戦慄の一瞬!?
小説の目次
- 脅迫状
- 長崎行き「さくら」
- オランダ村特急
- 長崎駅三番線
- ナガサキ・レディ
- ノブコ夫人の過去
- 解決のない対決
冒頭の文
スコットランド・ヤードの元警部、ミスター・ヘイズは、三年ぶりに、奥さんを連れて来日することになった。
小説に登場した舞台
- 成田空港(千葉県成田市)
- 寝台特急「さくら」
- 博多駅(福岡県福岡市博多区)
- オランダ村特急
- 佐世保駅(長崎県佐世保市)
- 西海橋(長崎県佐世保市)
- 長崎オランダ村(長崎県西海市)
- 長崎駅(長崎県長崎市)
- 稲佐山観光ホテル(長崎県長崎市)
- 佐世保市街(長崎県佐世保市)
- ヒースロー空港(イギリス・ロンドン)
- パディントン駅(イギリス・ロンドン)
- ストラットン(イギリス)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川警部:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 清水新一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上本部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
事件関係者
- ミスター・ヘイズ:
ミステリー作家。スコットランド・ヤードの元警部。 - 酒井信子:
ミスター・ヘイズの妻。警視庁の元刑事。長崎出身。 - J・ケンドリックス:
40歳。イギリスの警部。ミスター・ヘイズ護衛のために来日する。 - 久保敬:
42歳。やまと出版の出版部長。 - スタイナー:
28歳。日本在住の英語教師。酒井信子を誘拐犯し、佐世保の桟橋で自爆した。 - 安西みどり:
25歳。スタイナーのガールフレンド。酒井信子を誘拐し、佐世保の桟橋で自爆した。
その他の登場人物
- 安藤みや子:
28歳。女性週刊誌「メイクアップ」の記者。アメリカの大学を卒業。 - 小磯雄太郎:
35歳。ハードボイルド作家。 - 山下:
寝台特急「さくら」の車掌長。 - 佐々木:
ロンドンにある日本大使館の書記官。 - ダグラス・フィッシャー:
ストラットンにある消防署長。 - ミセス・ラディ:
ストラットンにある「キース慈善団体」の事務員。 - キャンフィールド:
ストラットンの警察署長。 - グルーバー:
40歳。ミスター・ヘイズの元運転手。 - ヘレン:
ヘイズ家のメイド。
印象に残った名言、名表現
(1)大村湾と西海橋。
風は強いのだが、大村湾の中は、波静かで、湖のようだった。
前方に湾をまたぐ格好で、西海橋が見えて来た。その橋の下を通過するときは、子供たちが上を見上げて、歓声をあげた。
(2)欧州での東洋人差別。
「最初は、相手の優しさに感激する。みんないい人たちだと思う。ところが、すぐ相手の優しさが重荷になってくる。優しさの中身がわかってくるからです。何も知らない、無教養な人間には、優しくしてやらなければいけない。そう考えての優しさと、気づくからですよ」
(3)西洋人の感覚。
イギリス人というのは、日本人を含めて、東洋人を使うことには慣れていても、逆に、日本人に使われることには、慣れていないのだ。だから、それが現実になると、戸惑いや違和感を覚えるのだろう。
感想
わたしが、本作を読む前に、あらすじを読んだとき、こんな印象を抱いた。
「テロ組織との、手に汗握る攻防戦を描いた、ノンストップアクションミステリー。」
実際、十津川警部シリーズでは、誘拐犯やテロ組織、暴力団との攻防戦を描いた作品が多数、刊行されていたからだ。
例えば、1983年刊行の「札幌着23時25分」、2003年刊行の「ダブル誘拐」、2012年刊行の「九州新幹線マイナス1」などが、そうだろう。
だが、本作「長崎駅殺人事件」は、ノンストップアクションミステリーとは、一味違った作品である。
確かに、途中までは、国際テロ組織「世界革命党」から、ヘイズ夫妻を守り、誘拐されたミス・ヘイズを奪還するための、攻防戦が描かれる。銃撃や爆撃も起こった。そして、”悲しい出来事”が起こり、事件は終幕を迎えた、ように見えた。
しかし、読者はここで気がつくだろう。「あれ?まだ、残りページがかなりあるぞ……。ひょっとして……?」と。
この後、十津川警部は、イギリスに向かうことになる。この時、読者は悪い予感がするだろう。まさか、この事件は、✗✗✗なんじゃないかと……。
✗✗✗の中身を、ここで明かすことはできないが、ここで2つだけ言えることがある。
- この作品には、壮大なトリックがしかけられている。
- 明かされる真実は、十津川にとっても、読者にとっても、そして、日本人にとっても、悲しいことである。
また、なぜ、本作のタイトルが「長崎駅殺人事件」なのか?その意味がわかると思う。
最後にひとつだけ。
下に記載した、西村京太郎先生のことばに書かれているとおり、「長崎」と「ナガサキ」の違いについて、考えさせられるはずである。
「長崎」と漢字で書くのと、片仮名で「ナガサキ」と書くのとでは、雰囲気が変わるし、ある場合には、意味も変わってしまうことがある。それは、「広島」と「ヒロシマ」が違うのと似ている。
この作品の題名は、『長崎駅殺人事件』だが、私がこの小説で書いてみたいと思ったのは、「長崎」と「ナガサキ」の違いというものである。
日本人の「長崎」と、外国に開かれた「ナガサキ」では、当然、意味が違ってくる。ときには、違わなければならないということもあるはずである。それが、殺人にまで発展することがあるかもしれない。
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