初版発行日 1981年12月10日
発行出版社 光文社
スタイル 長編
私の評価
十津川警部シリーズの最高傑作との呼び声高い名作!橋本の運命の事件を描いた愛と慟哭の傑作長編推理!!
あらすじ
夜行列車「ゆうづる13号」と青函連絡船「津軽丸」内で惨殺された二人の男はともに裸で後ろ手に縛られ、「死ね」と口紅のメッセージが残されていた。容疑者として浮かんだのは、警視庁・橋本刑事。部下思いの十津川警部は急遽、北海道へ飛んだ。そして、第三、第四の猟奇惨殺事件が……!
小説の目次
- 帰郷
- 青函連絡船
- 或る事件
- 札幌の夜
- 追跡
- 屈辱の夜
- 流氷を待つ町
- レンタカー
- 北海岸
- 火刑の朝
- アリバイ
- 北端の町・稚内
冒頭の文
「どうしても、辞めるのかね?」十津川は、もう一度、確かめた。惜しい気がして仕方なかったからである。
小説に登場した舞台
- 羽田空港(東京都大田区)
- 寝台特急「ゆうづる13号」
- 青森駅(青森県青森市)
- 青森港(青森県青森市)
- 青函連絡船「津軽丸」
- 函館港(北海道函館市)
- 函館駅(北海道函館市)
- 田原町駅(東京都台東区)
- 札幌駅(北海道札幌市北区)
- 千歳空港(北海道千歳市)
- 特急「ライラック3号」
- 新宿歌舞伎町(東京都新宿区)
- 深川駅(北海道深川市)
- 旭川駅(北海道旭川市)
- 妹背牛(北海道・妹背牛町)
- 江別駅(北海道江別市)
- 留萌駅(北海道留萌市)
- 増毛(北海道・増毛町)
- 稚内空港(北海道稚内市)
- 稚内駅(北海道稚内市)
- 稚内港北防波堤ドーム(北海道稚内市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 橋本豊:
27歳。警視庁捜査一課の刑事で、十津川警部の部下。警視庁を退職し、故郷の稚内へ帰ることに。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 小川:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 桜井:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 加東英司:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
警察関係者
- 江島:
青森県警の警部。 - 江上:
北海道警の本部長。 - 阿部:
北海道警の警部。
事件関係者
- 古川みどり:
20歳。M大学に通う女子大生。橋本豊の恋人。小金井市に在住。12月に集団暴行され自殺する。 - 青木亜木子:
雑誌「週刊日本」の記者。 - 金子貢太郎:
25歳。フリーター。傷害の前科あり。中野のマンションに在住。古川みどりを集団暴行した男たちの一人。寝台特急「ゆうづる13号」の車内で刺殺死体となって発見された。 - 佐々木学:
26歳。東西物産営業三課の社員。明大前にあるマンションに在住。古川みどりを集団暴行した男たちの一人。青函連絡船で死体となって発見された。 - 君島則文:
24歳。中野のマンションに在住。社長の息子。古川みどりを集団暴行した男たちの一人。 - 市川三郎:
通称サブちゃん。鈴木弓子のヒモ。古川みどりを集団暴行した男たちの一人。 - 柴田邦彦:
城南大学に通う大学生。古川みどりを集団暴行した男たちの一人。 - 和田久志:
49歳。和田工業の社長。
その他の登場人物
- 弓倉マキ子:
全日空のCA。佐々木学の元恋人。 - 中島まゆみ:
女子大生。 - 鈴木:
青函連絡船「津軽丸」の船客長。 - 木下:
東西物産の人事課長。 - 多田:
東西物産営業三課の社員。佐々木学の同僚。 - 木村友彦:
19歳。通称キー坊。新宿にたむろする情報通。 - 鈴木弓子:
ソープ嬢。サブちゃんの女。 - しづえ:
銀座にある高級クラブのホステス。君島則文の馴染みのホステス。 - 細川:
増毛町の消防署員。
印象に残った名言、名表現
(1)東北と北海道の違い。
不思議に、日差しは、青森のそれよりも、明るく輝いて見えた。これは、東北と、北海道の風土の違いなのだろうか。同じように、厳しく、寒くても、その寒さに違いがあるのかもしれない。
(2)真っすぐな男が最後は伸びる。
十津川の知っている橋本は、馬鹿正直で、融通のきかない男だった。変に要領のいい男よりも、将来性はあると、十津川は、認めていた。
(3)人柄は眼に現れる。ゆえに、殺人も眼でわかる。
愛のために、殺人をする場合と、ただ単に、金のために人を殺す場合とでは、犯人の眼の光が違わなければ、おかしい。
(4)橋本豊を犯人と考えたくない亀井刑事。
「私は、橋本君を、どうしても、犯人とは考えたくないんです」
「警部。橋本君は、柴田を殺した犯人じゃないんですよ。現場に山型の足跡を残した犯人は、橋本君じゃありません」亀井は、嬉しそうに、いった。
「やはり、橋本君が、犯人でしょうか?」と亀井が、暗い眼で、十津川を見た。二人の間で、何度、同じ問答が、くり返されたことだろう。亀井は、十津川に否定してもらいたくて、きいているのだ。
(5)人としての情と、刑事としての義務の間で揺れる十津川警部。
二つの殺人事件が、橋本の犯行だと、だんだん、決められてくるのは、このうえなく、辛かった。
今度の獲物は、かつての仲間なのだ。それに、彼の恋人は、暴行されて自殺している。罪も、人も憎めはしない。だが、刑事としての義務がある。その義務は重い。
感想
十津川警部シリーズといえば、日本推理作家協会賞を受賞した「終着駅殺人事件」や、トラベルミステリーの潮流を決定づけた「寝台特急殺人事件」が有名である。
だが、本作が「十津川警部シリーズの最高傑作」と言うファンも多い。それくらいの名作なのだ。
私の感想としても、間違いなくベスト5に入ると思う。現在の2021年4月時点で、まだ全作読んでいないので、これが最高傑作と断言することはできないが、ベスト3に入るかもしれない。
十津川警部シリーズではお馴染みの重要キャラクター・橋本豊。元警視庁捜査一課の刑事で、私立探偵をしている。十津川警部たち警視庁で追えなくなった事件を、代わりに橋本豊が追うこともあるし、私立探偵として橋本豊に依頼された仕事から事件の捜査が発展していくこともある。
猪突猛進するところがあるが、真っ直ぐな性格で捜査能力も優秀である。刑事時代は十津川警部もその実力を買っていた男でもある。
本作は、そんな橋本豊が、なぜ、警視庁を辞めることになったのか?その経緯が描かれた事件であった。十津川警部シリーズをより深く理解する上で欠かせない作品でもあるのだ。
サスペンス、人情、旅情、列車トリック、アリバイ偽装とアリバイ崩し、大どんでん返し、そして、美しいラストシーン。本作はすべてが完璧だった。
内容についてはここで多くを語らないが、期待通り、いや期待を上回る面白さがある。本作は、名作である。
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