初版発行日 2017年3月3日
発行出版社 集英社
スタイル 長編
十津川警部の大学時代の親友、小柴敬介が殺人容疑で逮捕される!彼の無実を明らかにし、真犯人を見つけるために立ち上がった十津川、若柳、小柴。大学時代の親友3人が、北海道を駆け巡る!舞台はタンチョウヅルが舞う冬の道東!
あらすじ
会社員の小柴は、毎年2月に釧路へ旅行し、行方不明の恋人ゆみを探している。今年も『SL冬の湿原号』に乗り、乗客を丹念に撮影。レンタカーに戻ると見知らぬ女の死体があり、容疑がかかる。7年前ゆみの失踪時も疑われた過去があった。小柴と同級生の十津川警部は、彼の写真を手がかりに捜査を始め、3Dカメラ開発が絡んでいると……。
小説の目次
- 釧路湿原
- 身代金一千万円
- 釧網本線
- レントゲンの影
- 事件の予感
- 幻のタンチョウ
- 雪の日のタンチョウ
冒頭の文
小柴敬介は、現在四十歳。まだ独身である。これといった趣味はないが、しいていえば旅行とカメラだろう。
小説に登場した舞台
- 釧路空港(北海道釧路市)
- 釧路駅(北海道釧路市)
- SL冬の湿原号
- 標茶駅(北海道・標茶町)
- 丹頂鶴自然公園(北海道釧路市)
- 阿寒国際ツルセンター(北海道釧路市)
- 山花温泉(北海道釧路市)
- 釧路湿原展望台(北海道釧路市)
- 塘路駅(北海道・標茶町)
- 細岡展望台(北海道・釧路町)
- 鶴居村(北海道・鶴居村)
- 塘路湖(北海道・標茶町)
- 札幌駅(北海道札幌市北区)
- 新千歳空港(北海道千歳市)
- 羽田空港(東京都大田区)
- 小田急線新宿駅(東京都新宿区)
- 快速しれとこ
- 摩周駅(北海道・弟子屈町)
- 南弟子屈駅(北海道・弟子屈町)
- 飯田橋駅(東京都千代田区)
- 東京駅(東京都千代田区)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。
事件関係者
- 小柴敬介:
40歳。大東電機の技術課長。十津川警部の大学時代の親友。 - 坂口あや:
29歳。モデル。青山のモデルクラブ「バラの花籠」に在籍。小柴敬介が乗っているトランクの中で死体として発見される。 - 若柳豊:
刑事事件専門弁護士。小柴敬介と十津川警部の大学時代の親友。 - 及川ゆみ:
小柴敬介の恋人。7年前、北海道で失踪した。 - 江崎健四郎:
3D企画の社長。52歳。 - 江崎徳之助:
江崎健四郎の父親。3D企画の創業者。 - 村上邦夫:
45歳。小田急線新宿駅のホームで遺体で発見された。 - 香取徹:
35歳。江崎健四郎の個人秘書。
その他の登場人物
- 松本:
3D企画の人事部長。 - 川村:
中央病院の医師。 - 渡辺:
北海道警の警部。 - 小田切勇:
元3D企画の社員。 - 若山みどり:
北海道警の刑事。 - 白鳥:
弁護士。
印象に残った名言、名表現
(1)小柴のデジャブ。
パトカーに乗せられている間、小柴は、不思議な幻影を見ていた。これを、デジャブというのだろう。今から、七年前、冬の北海道で、小柴は、今と同じように、刑事に抑えつけられ、パトカーで、運ばれたのである。
(2)幸運という抽象的な概念が、値段に応じて効能が変わるのは、確かにおかしい。
健康と幸運を呼ぶという腕輪だが、値段に比例して効能が決められているようで信用できなかった。
(3)十津川警部の勘は、正しい。
十津川は、事件が終局に近づいていることを感じた。それは刑事としての勘であり、また、小柴の友人としての心配でもあった。
感想
本作を語る上で欠かせないのが、北海道、道東の大自然だろう。
道東の銀世界の上を、優雅に舞うタンチョウヅルの群れ。それを見つめる小柴敬介。
釧路湿原の中で笑顔になったのは、雪の降り積もった湿原の中に、つがいのタンチョウヅルを発見した時だった。よく見れば、幼鳥が一緒である。
しかし、彼の心は悲しみに支配されている。
ふと、岸辺にタンチョウの姿を発見した。タンチョウを、ひとり占めである。しかし、嬉しくなるよりも、悲しくなってきた。タンチョウを、見つけても、一緒に喜ぶ彼女が、傍にいないからだ。
悲しみに包まれた小柴敬介から見る、道東の大自然や、タンチョウヅルの美しさが、何とも哀愁を誘うのだ。
そして、物語の後半、孤独な一人の女性が、孤独なタンチョウヅルを可愛がり、一生懸命育てる姿が描かれている。
この事件全体を覆う”悲しさ”が象徴されたシーンである。
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