初版発行日 1988年4月25日
発行出版社 扶桑社
スタイル 長編
殺人犯に仕立て上げられた哀れな男と、男たちを狙う不気味な女。この構図が、恋人を殺され復讐に燃える女と、下衆なチンピラたちに変わっていく。最後に現れた真犯人と意外な結末。極上の長編サスペンス!
あらすじ
上野発・特急「ゆうづる5号」の個室寝台で、新井は偶然見知らぬ美女と同室することになった。ところが眼がさめてみると、もはやその美女の姿はなく、かわりに彼が慰謝料でもめている銀座のホステスの死体が……。十津川警部が密室で起こった殺人事件の謎を解明してゆくうちに、「女」の哀しい過去が暴かれてゆく。
小説の目次
- A2寝台
- 青函連絡船
- 奇妙な死
- 女の過去
- カーチェイス
- 鈴鹿
- 新宿の夜
- 新たな展開
- 最後の法廷
冒頭の文
来年の三月で、青函連絡船が消えるときいて、新井修は、急に、乗ってみたくなった。
小説に登場した舞台
- 上野駅(東京都台東区)
- 寝台特急ゆうづる
- 一戸駅(岩手県・一戸町)
- 青森駅(青森県青森市)
- 不忍池(東京都台東区)
- 盛岡駅(岩手県盛岡市)
- 浅虫温泉駅(青森県青森市)
- L特急はつかり号
- 仙台駅(宮城県仙台市青葉区)
- 仙台空港(宮城県名取市)
- 千歳空港(北海道千歳市)
- 函館駅(北海道函館市)
- 豊島園(東京都練馬区)
- 函館港(北海道函館市)
- 松本駅(長野県松本市)
- 地蔵峠(長野県飯田市)
- 鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)
- 名古屋(愛知県名古屋市)
- 新大阪駅(大阪府大阪市淀川区)
- 渋谷駅前(東京都渋谷区)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 清水新一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 白石:
青森県警の警部。 - 小川:
青森県警の刑事。 - 谷岡:
北海道警の警部。 - 北村:
長野県警の警部。 - 池谷:
長野県警の警官。 - 前田:
三重県警の警部。 - 浜中:
大阪府警の警部。 - 田原:
大阪府警の刑事。
事件関係者
- 新井修:
30歳。新井産業の社長。南青山にあるレストランのオーナー。 - 岡田孝男:
35歳。新井産業の副社長。豊島園のジェットコースターで死体で発見される。 - 笠井麻美:
27歳。コピーライター。かつてJA企画で働いていた。 - 浜野みどり:
26歳。銀座のクラブ「シュトレス」のホステス。西新宿在住。新井修の女。特急ゆうづるの個室寝台で殺されていた。 - 平田次男:
35歳。杉並区下高井戸にある平田建設社の社長。元組員。函館市内のホテルで新井修に刺され、死亡。 - 小杉博:
30歳。S通信三鷹研究所の所員。笠井麻美の恋人。半年前に長野で事故死。 - 武藤カオル:
短大生。レースクイーン。岡田孝男の女。 - 角谷ひろみ:
ブティックを営む。元女子プロレスラー。新井修の女。
その他の登場人物
- 山本:
寝台特急ゆうづるの専務車掌。 - 田中:
寝台特急ゆうづるの車掌長。 - 吉牟田:
新井修の顧問弁護士。 - 鈴木昭:
豊島園の従業員。 - 島木:
豊島園の施設責任者。 - 羽島かおり:
銀座のクラブ「かおり」のママ。 - 田口:
中央新聞社会部の記者。十津川警部の大学時代の同級生。 - 中山:
広告関係の雑誌社を営む。 - 若杉:
JA企画の責任者。 - 笠井功一:
32歳。笠井麻美の兄。松江市内の菓子店を営む。 - 檜田:
30歳。S通信三鷹研究所の所員。小杉博の同僚。 - ひろみ:
銀座のクラブ「エポック」のホステス。 - 秋山:
中央テレビのプロデューサー。 - 仁村:
神田にある雑誌社の編集長。 - 日野:
神田にある雑誌社のカメラマン。 - 内田悠:
銀行員。武藤カオルの叔父。 - 原口ナオミ:
元女子プロレスラー。角谷ひろみの友人。
印象に残った名言、名表現
■男は勝手に、夢想する。
彼女との青森までの旅を、あれこれ、楽しく空想するようになった。二人用でも、個室だから、錠を下ろしてしまえば、完全な別世界である。その中で、青森まで、十一時間近くを、共に過ごすのだ。彼女の方だって、旅のアバンチュールを楽しみたくて、一緒の個室に入りたいと、いったに違いない。
感想
読者に二重三重の罠が仕掛けられている、巧妙なミステリーである。
前半は、罠にはめられて殺人犯に仕立て上げられて、仲間も殺されてしまった哀れな男。その男たちを狙う冷徹で不気味な一人の女という、構図だった。
だが、中盤で一人の女の悲しい背景を知ることで、前半に抱いていた印象が激変していく。中盤以降は、恋人を殺され復讐に燃える一人の女。下衆で自己保身を考えるチンピラたちの構図に変わっていくのだ。
実際、十津川警部と亀井刑事も、次のように話している。
「カメさんは、新井よりも、笠井麻美の方に同情しているみたいだねえ」と、いった。
亀井は頭をかいて、「時々、被害者より加害者の方が、いい人間に見えることがありますから」
一番悪い人間は誰か?殺人犯が一番悪い人間なのか?一番悪いのは、チンピラたちではないのか??
十津川警部や亀井刑事の心情とは裏腹に、事件はチンピラたちにとって有利な展開に傾いてく。「もはや、万事休すかー」諦めかけた最後の最後に、大どんでん返しが待っているのだ。
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