初版発行日 1987年10月25日
発行出版社 光文社
スタイル 長編
私の評価
北の大地に張り巡らされた巧妙な罠に十津川警部が挑む!美しさと哀しみが滲む傑作!!
あらすじ
恋人に裏切られ借金に追われる風見ゆう子は死に場所を求めて北海道へ向かった。特急「北斗1号」で、彼女は見知らぬ男から3日間旅に同行して欲しいと100万円を渡される。そして身に降りかかる連続殺人の容疑。
小説の目次
- 風見ゆう子
- 死者の顔
- 羽島裕
- 二人の男
- 過去を探る
- 吉岡宏
- 北原冴子
- 小坂井はるみ
冒頭の文
函館の町も、駅も、まだ眠っているようだった。
小説に登場した舞台
- 青函連絡船「十和田丸」
- 函館港(北海道函館市)
- 函館駅(北海道函館市)
- 特急「北斗1号」
- 長万部駅(北海道・長万部町)
- 東室蘭駅(北海道室蘭市)
- 札幌駅(北海道札幌市北区)
- 定山渓温泉(北海道札幌市南区)
- 特急「ライラック13号」
- 岩見沢駅(北海道岩見沢市)
- 旭川駅(北海道旭川市)
- 層雲峡温泉(北海道・上川町)
- 遠軽駅(北海道・遠軽町)
- 特急「オホーツク1号」
- 網走駅(北海道網走市)
- 網走港(北海道網走市)
- 女満別空港(北海道・大空町)
- 千歳空港(北海道千歳市)
- 羽田空港(東京都大田区)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 清水新一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 森川:
北海道警の刑事。 - 戸田:
北海道警の刑事。 - 三浦:
北海道警の警部。 - 宮地:
警視庁書道捜査班の警部。 - 中村:
科研の技官。
事件関係者
- 風見ゆう子:
25歳。大手町に本社のあるM興業に勤務。調布市内のマンションに在住。男に騙されて借金を背負わせれ自殺を決意して北海道に来た。その後、殺人容疑で逮捕・起訴された後、拘置所で自殺した。 - 羽島裕:
旅行評論家。代田橋のマンションに在住。風見ゆう子に100万円を渡し、死ぬ前の3日間北海道を旅しようと言ってきた男。 - 小坂井はるみ:
翻訳家。上北沢のマンションに在住。羽島裕の恋人。長野の旧家の娘。 - 吉岡宏:
32歳。風見ゆう子の恋人だった男。元M興業の社員。現在は隅田公園近くのマンションに在住。連帯保証人だった風見ゆう子に借金6千万円を押しつけ姿を消した。その後、自宅で死体となって発見された。 - 山崎信一郎:
42歳。三軒茶屋にある宝石店の店主。世田谷区のマンションに在住。函館出身。特急「ライラック13号」の車内で死体となって発見された。 - 原田修:
池袋にある不動産屋の社長。定山渓温泉のホテルで何者かに殺害された。 - 北原冴子:
28歳。新宿歌舞伎町にあるクラブのホステス。吉岡宏と交際していた。成城のマンションに在住。自宅で死体となって発見された。
その他の登場人物
- 宮本:
札幌のタクシー運転手。 - 笠井:
M興業の人事部長。 - 立花めぐみ:
M興業の社員。風見ゆう子の同僚。 - 高橋ゆみ:
女子大生。大田区田園調布に在住。 - 前田康子:
クラブのホステス。以前、吉岡宏と交際していたことがある。 - 三枝:
羽島裕がかつて勤めていたS電気の管理課長。 - 森秀介:
S電気の社員。 - 若林ユカ:
S電気の社員。 - 広川隆一:
神田にある「T出版」の編集長。羽島裕の友人。 - 本橋ユキ:
吉原のソープで働くホステス。吉岡宏と交際していたことがある。 - 丸山:
写真家。千駄ヶ谷にスタジオをもつ。
印象に残った名言、名表現
■死を覚悟した女の回想。
暗い闇の中に、白い雪片が乱れている。ゆう子は、じっとその雪片を見つめていた。風の吹くままに乱れ飛ぶ雪片が、まるで、自分の人生のように見えてならない。自分は、いったい何に弄ばれたのだろうか?
感想
哀しくやり切れない事件だった。
本作は、”2つの恨みが交錯する殺人事件”であり、それぞれに、恨みと哀しみとやり切れなさがある。
本来、まったく関係なかったこの2つの恨み。一方は自死することですべてを終わらせようとしていた。もう一方は復讐した後に自死することを選んだ。この2つが重なったとき、哀しい哀しい事件が起こってしまったのである。
事件の展開については、ここで語らない。殺人事件の犯人は序盤で読者にもわかる。問題は、この事件の真相に、どうやって十津川警部が行き着くか?である。
結末として、本当の悪人は死んだ。形としては復讐が果たされた。だが、なぜかやり切れなさが残るのである。
終盤からなんとなく予想できた哀しいラストシーン。これは誰もが予想できるが、実際にラストシーンに直面すると、やはり哀しいのでる。網走の美しい海がさらに哀しみを助長させる。
「もっと良い解決方法がなかったのか?」と、自問自答してしまう自分がいるのである。
本作は、十津川警部シリーズの中でも、トップクラスの哀しくやり切れない事件だった。
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