初版発行日 2008年3月20日
発行出版社 新潮社
スタイル 長編
十津川警部、南へ。過去と現在、もつれあう事件に、十津川警部の推理が冴える!
あらすじ
東京のテレビ局で、旅行ライターが殺された。容疑者は、阿蘇の山麓で第二の人生を過ごす自動車会社の元部長。十津川と亀井は、阿蘇の雄大なカルデラを走るトロッコ列車に乗り、容疑者宅を目指す。もぬけの空の家に放置されていた1台のパソコン。その画面に現れたのは、過去の殺人事件を示唆する小説とも告白ともつかない文章だった。
小説の目次
- 第二の人生
- 南阿蘇鉄道
- 死のエッセイ
- 二匹のねずみ
- AID
- 猫とねずみ
- ねずみの反逆
冒頭の文
四月五日午前十時、四谷にある、中央テレビの控え室では、午後一時から放送されるドキュメント番組のリハーサルと、出演者の紹介が行われていた。
小説に登場した舞台
- 阿蘇くまもと空港(熊本県上・益城町)
- 南阿蘇鉄道
- 立野駅(熊本県・南阿蘇村)
- 南阿蘇水の生まれる里白水高原駅(熊本県・南阿蘇村)
- 阿蘇白川駅(熊本県・南阿蘇村)
- 長崎空港(長崎県大村市)
- ハウステンボス(長崎県佐世保市)
- 軽井沢(長野県・軽井沢町)
- 大井松田インターチェンジ(神奈川県・大井町)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中大輔:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 片山明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上本部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
事件関係者
- 秋山清一郎:
60歳。阿蘇の山中で『ねずみの里』をつくり、自給自足の生活をしている。元S自動車のデザイン部長。 - 秋山恵美子:
秋山清一郎の妻。 - 森本亜矢子:
30歳。旅行ライター。ドキュメント番組開始直前に、中央テレビ地下駐車場で刺殺された。 - 村田幸作:
72歳。北海道で『ねずみの里』をつくり、自給自足の生活を営む。 - 青山昌幸:
28歳。作家志望。秋山清一郎を主人公にした小説『ねずみを探せ』という原稿を書いていた。ハウステンボス内のホテルで殺される。 - 三崎亜由美:
25歳。青山昌幸の恋人。 - 島田剛志:
島田屋デパートの元社長。3年前、火事で亡くなる。 - 島田清志:
52歳。島田屋デパートの社長。 - 島田亜紀子:
45歳。島田清志の妻。 - 立川肇:
71歳。保守党の元代議士。昨年、病死。 - 立川明:
30歳。立川肇の息子。車で踏切に突っ込み列車と衝突して死亡。 - 安原隆史:
40歳。保守党の代議士。かつて立川肇の秘書をしていた。 - 星野信二:
スポーツ用品メーカー「ジェット」の社長。 - 星野弘恵:
星野信二の妻。 - 星野洋一:
星野信二の兄。西新宿で喫茶店を営む。 - 土井誠:
50歳。中央テレビのディレクター。 - 会田昭博:
48歳。国土交通省管理局管理課の課長。 - 伊藤洋:
49歳。都立F高校の柔道部監督。
その他の登場人物
- 斉藤隆史:
45歳。中央テレビのプロデューサー。 - 沢木康男:
28歳。中央テレビのディレクター。 - 小田誠:
フリーアナウンサー。 - 田中美奈:
26歳。中央テレビの女性アシスタント。 - 川辺:
40歳。KS出版の編集長。森本亜矢子と不倫していた。 - 長谷川友美:
母と一緒に新宿西口で喫茶店「フランソワ」を営む。森本亜矢子の大学時代の同級生。 - 桜井恭子:
税理士。渋谷の会計事務所で働いている。森本亜矢子の大学時代の同級生。 - 浅井:
S自動車の広報部長。 - 野村:
光琳出版の編集者。 - 小関:
R出版の出版部長。 - 阿部:
長崎県警の警部。 - 鈴木:
軽井沢消防署の署長。 - 川端:
長野県警の警部。 - 白石:
埼玉県警の警部。 - 中野勝:
安原隆史の秘書。
印象に残った名言、名表現
(1)ある男の告白。
「私の人生は、偽りの人生である。死に値する人生である。卑怯者の人生である。私はその恥ずべき秘密を、この六十歳まで、ずっと、隠し続けてきた」
(2)あまりにも簡単すぐて逆に不安になる十津川警部。殺人事件はそんなに簡単ではないことを、彼は知っている。
あまりにもあっさりと、納得できてしまうからね。こんな簡単なことで、二つの殺人事件が、解決できるんだろうか?かえってそれが、私には、不安に、なってくるんだよ」
(3)簡単に捜査方針が固まることに焦る十津川警部。
十津川は、曖昧な表情に、なった。自分の気持ちを、うまく表現できないことに、十津川は、苛立っていた。
「何か、忘れていることが、あるような、そんな気がしているんだよ」
感想
本作は、旅行ライターの刺殺事件と、阿蘇で自給自足を営む男の失踪が、事件の発端である。
最初は、阿蘇の男が、旅行ライターを殺した、という簡単な構図だった。だが、それは違った。事件の構図はこうだ。
才能はあるが、不遇をかこっている人間を見つけ出す。その人間の邪魔者やライバルを殺害し、その報酬の受け取りを強要するグループの犯罪だったのだ。
目の前にみえる「木」だけを見て、方針を固めた捜査本部に違和感をもち、十津川警部が動き出したところが、突破口になった。
この後の展開や結末は、本作を読んでほしい。
ひとつ、難癖をつけさせてもらえば、作品タイトルに「阿蘇」と「長崎」が入っているので、もう少し、阿蘇や長崎で事件の捜査を展開して欲しかったと、思う。
事件の本筋は、ほとんどが東京だったので、そこだけが残念だった。
ちなみに、こうした殺人請負グループの犯罪を描いた作品として、2014年刊行の「南風の中で眠れ」がある。この作品も、ある人物にとって邪魔な人間を事故死に見せかけて、その人物に多額な金銭を要求する殺人請負グループを描いた作品である。
最後に、本作では、日本で一番長い駅名として「南阿蘇水の生まれる里白水高原駅」が登場する。読み数で22文字である。
実は、「出雲 殺意の一畑電車」で、日本一長い駅名として一畑電車北松江線の「ルイス・C・ティファニー庭園美術館前駅」が紹介されていた。こちらも読み数で22文字だったが、2007年から駅名が変わり、「松江イングリッシュガーデン前駅」に変更されている。
そのため、2021年1月時点では、南阿蘇鉄道の「南阿蘇水の生まれる里白水高原駅」と、鹿島臨海鉄道大洗鹿島線の「長者ヶ浜潮騒はまなす公園前駅」の2つが、日本一長い駅名である。
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