初版発行日 1980年1月20日
発行出版社 新潮社
スタイル 長編
私の評価
”現代の狂気”をダイナミックに描き出した力作推理長編!
あらすじ
休日の銀座に、突然、蝶の大群が舞った。蝶の舞い上ったあとには、聖書の言葉を刻んだブレスレットをはめた青年の死体があった。これが、十津川警部の率いる捜査本部をきりきり舞いさせた連続予告自殺の始まりだった。次々に信者の青年たちを自殺させる狂信的な集団。その集団の指導者・野見山は何を企んでいるのか……。
小説の目次
- 蝶の群れ
- 炎の十字架
- 第四の悲劇
- 追跡
- 使徒たち
- 脅迫
- 北の原野
- 地獄の楽園
冒頭の文
子供の走り廻る音で眼をさました亀井は、今日が日曜日で、家庭サービスを約束してあったのを思い出した。
小説に登場した舞台
- 銀座歩行者天国(東京都中央区)
- 高島平団地(東京都板橋区)
- 浅草橋(東京都台東区)
- 館山駅(千葉県館山市)
- 富津(千葉県富津市)
- 明治神宮野球場(東京都新宿区)
- 羽田空港(東京都大田区)
- 台湾桃園国際空港(台湾)
- 台中駅(台湾)
- 千歳空港(北海道千歳市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 井本:
築地署の刑事。 - 石川:
築地署の刑事。 - 大杉:
板橋署の刑事。 - 原田:
板橋署の刑事。 - 青山:
千葉県警の刑事。 - 荒木:
北海道警本部の刑事。 - 亀井公子:
亀井刑事の妻。 - 亀井健一:
亀井刑事の息子。 - 亀井マユミ:
亀井刑事の娘。 - 田名部(通常は田島という名前で登場する):
東西新聞社会部の記者。十津川警部の大学時代の同級生。
新興宗教「神の王国」
- 野見山貢:
新興宗教「神の王国」の教祖。1965年にメチル水銀中毒で死亡した高橋文子の息子。 - 小林昌彦:
「神の王国」の信者。25歳、運送会社「八木沢運送店」の社員。大森駅近くのアパートに在住。 - 立花賢一郎:
「神の王国」の信者。 - 金子真:
「神の王国」の信者。銀座歩行者天国で死体となって発見された。 - 石田明子:
「神の王国」の信者。高島平マンモス団地の一角で死体となって発見された。 - 関根和夫:
「神の王国」の信者。神宮球場で焼身自殺した。 - 風見冴子:
「神の王国」の信者。西新宿のプレハブ展示会場で焼身自殺した。 - 伊東みどり:
「神の王国」の信者。多摩川のボートで死体となって発見された。 - 阿部浩:
「神の王国」の信者。千歳烏山の路上でトラックに轢かれて負傷する。 - 小野沢勇:
「神の王国」の信者。 - 三枝君子:
「神の王国」の信者。 - 片岡敏子:
「神の王国」の信者。
日宝コンツェルングループ
- 千田元司:
59歳。日宝コンツェルンの社長。田園調布の豪邸に在住。 - 千田徳一郎:
日宝プレハブの社長。元日宝自動車の営業部長。 - 秋野伸介:
日宝プレハブの営業部長。 - 佐々木:
日宝自動車の社長。 - 坂井賢一郎:
40歳。日宝自動車の係長。1年前、アドバルーンの事故で息子が死亡し、日宝自動車から賠償金を受け取った。 - 坂井明子:
坂井賢一郎の妻。
その他の登場人物
- 田中:
48歳。浅草橋にある問屋の主人。 - 安西:
神宮球場の球場課長。 - 武井:
神宮球場のグランドキーパー。 - 大杉:
小林昌彦が勤める「八木沢運送店」の社長。 - 早川幸子:
千歳烏山にあるバー「さちこ」のママ。 - 田中:
バー「さちこ」のバーテン。 - 藤沼:
世田谷の救急病院「三田外科病院」の事務局長。
印象に残った名言、名表現
■銀座を舞うモンシロ蝶の大群。
空に舞うモンシロ蝶の数が、驚くほどの早さで増えていき、高く低く、人々の頭上を乱舞しはじめたのだ。何匹いるのか、亀井には、もう数えられなかった。
何百、いや、何千という数かも知れない。まるで、その羽根音が聞こえてきそうな数だった。
感想
本作は、コントラストが鮮やかな作品だったと思う。
まず挙げられるのは、色彩のコントラストである。
銀座の歩行者天国でモンシロチョウの大群が飛び交ったり、高島平団地で風船が大量に舞い上がったり、神宮球場や西新宿のプレハブ展示場での焼身自殺があったり、多摩川のボートに敷き詰められた赤いハイビスカスの中で見つかった死体など、事件の現場になった場所は、いずれも色鮮であり、死体とのコントラストが鮮明である。
この色彩のコントラストが、とにかく美しい。
次に、新興宗教と社会派のコントラストである。宗教という哲学的、精神的な世界にいきる人物たちを描き、その一方で企業の闇という物理的、現実的な世界も描いている。この対照的な世界のコントラストがまた、鮮やかであった。
事件については、犯人というか犯行集団の存在は前半で明らかになっている。が、すべて自殺として処理できる死に方であり、犯人として逮捕するのは難しい。
十津川警部はこの難問をどうやって突破していくのか?これが見どころでもある。真犯人についても大どんでん返しがあり、最後の最後まで目が離せない、緊張感に包まれた作品であった。
コメント