初版発行日 1994年5月31日
発行出版社 徳間書店
スタイル 長編
上野公園と京王多摩川で見つかった他殺体は、いずれも偽の名刺を持っていた。被害者はいったい何者なのか?事件の捜査で松島へ向かった亀井刑事は、高校時代の憧れの女性と再会するが…
あらすじ
架空の世田谷区議の名刺を持った男の毒殺体が上野公園で発見された。翌日、多摩川で見つかった女の絞殺体からも架空の名刺が現われ、同じ印刷屋で作られたことが判明した。十津川警部は女に東北訛りがあったとの情報を得、地方紙に似顔絵を出したところ、松島の小笠原ゆきから、自分の祖母ではないかとの問い合わせがあった。十津川と亀井は現地に向かう。が、ゆきは姿を消していたのだ!?
小説の目次
- 身元不明
- 再会
- 奥松島
- わずかな手掛り
- 写真の中に
- 雷雨の中で
- 死者への花束
- 終局への一週間
冒頭の文
九月七日の早朝、その死体は、発見された。場所は、上野公園の中の野口英世の銅像の近くである。
小説に登場した舞台
- 上野公園(東京都台東区)
- 京王多摩川(東京都調布市)
- 仙台駅(宮城県仙台市青葉区)
- 松島海岸駅(宮城県・松島町)
- 塩釜警察署(宮城県塩竈市)
- 奥松島(宮城県東松島市)
- 一ノ関駅(岩手県一関市)
- 白石蔵王駅(宮城県白石市)
- 刈田岳(宮城県白石市)
- 瑞巌寺 五大堂(宮城県・松島町)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 清水新一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中大輔:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
宮城県警
- 坂本:
宮城県警の警部。 - 島田:
宮城県警の警部。53歳。 - 中村:
宮城県警の警部。
事件関係者
- 小笠原ゆき:
松島海岸に住む女性。塩釜のデパートで経理の仕事をしている。 - 奥寺綾子:
旧姓野田綾子。仙台交易の社長をしている。亀井刑事が高校時代に密かに思いを寄せていた女性。 - 高見祐介:
仙台の東五番丁でレストランを営む。亀井刑事の高校時代の友人。 - 宮内敏夫:
S大学経済学部の助教授。元参議院議員。宮城県知事選に立候補する予定。 - 小田中順子:
宮内敏夫の秘書。ADユニオンの社員。 - 瀬口:
宮内敏夫の秘書。 - 小田:
宮内敏夫の秘書。 - 神田圭一郎:
宮城県で大病院を経営している。「宮城県をよくする会」の事務長。 - 神田敬次郎:
神田圭一郎の弟。ADユニオンの社長。宮内敏夫の大学時代の同級生。 - 富岡正太郎:
4年前町会議員をしていた男。 - 富岡昭子:
富岡正太郎の妻。 - 浜田浩一郎:
7月にバイクで走行中、車にはねられて死亡。 - 津田信次:
奥松島にある津田修理工場の社長。 - 広田:
津田修理工場の従業員。 - 宮野良祐:
自首してきた男。
その他の登場人物
- 小笠原市郎:
小笠原ゆきの父親。50歳。サラリーマン。 - 小笠原文子:
小笠原ゆきの母親。45歳。 - 広田:
上野にある広田鉄工所の社長。 - 鈴木:
広田鉄工所の従業員。 - 木田清子:
宮内敏夫の妻。
印象に残った名言、名表現
(1)亀井刑事の甘酸っぱい妄想。
今日は、よく晴れている。きっと、松島の海も、きらきら、輝いていることだろう。ふと、綾子と二人で、松島の海岸を歩いているところを空想して、あわてて、小さく頭を振った。
(2)男はいくつになっても、恋した女性のことを忘れない。
急に、綾子の表情が、子供っぽくなった。いや、亀井の思い出の中の少女に近くなったといった方がいいかも知れない。この少女の顔に、憧れたことがあったのだ。
(3)都会の良さでもあり、恐ろしさでもある。
十津川は、そこに、現代という怪物の恐ろしさを見るような気がした。東京という大都会の恐ろしさといってもいい。
二人の男女、それも、中年の男女が、殺されたというのに、身元がわからない。つまり、この東京では、身元を隠したまま、ゆうゆうと、暮していけるということなのだ。
(4)男と刑事の間で揺れ動く。
感情の方は、悪い女と、思いたくないのだ。悪い奴に脅かされて、仕方なく、自分たちを罠にかけたのだとである。
だが、同時に、亀井は、二十年の刑事生活からくる勘も、持ち合わせている。その勘は、別の結論を示していることも、知っていた。
感想
いやぁ、最高に面白かったゾ!この作品!ミステリーとしての完成度がめちゃくちゃ高い!
謎が謎を呼ぶを通り越して、謎だらけ。まるで迷路に迷い込んでしまったような感覚に陥る。もちろん、ミステリーであり警察小説だから、謎を解いて犯人逮捕まで行くことはわかっているんだけど、解決に至るまでの苦闘の連続、事実と推理を組み合わせる論理的な展開、点と点がつながったときのカタルシス。
本当に素晴らしい!
さらに、今回は、青森生まれ仙台育ちの亀井刑事が大活躍する。高校時代に思いを寄せていた女性に出会い、思わず舞い上がってしまう亀井刑事の新たな一面を見ることができる。実は、この出会いが伏線になっており、亀井刑事の”恋心”が、捜査の目を曇らせることにもなるのだけれど。
学生時代の甘酸っぱい恋を思い出し、淡い期待を寄せる亀井刑事の姿は、他ではなかなか見られない。貴重な作品である。
さらに、今回は”東北人の律儀さ”というものにも、焦点が当っている。正直で義を重んじ恥じらいをもつ。この東北人のすばらしい気質が、今回の悲劇をおこした元凶にもなってしまったところが、また面白い。
*本作は松島海岸がメイン舞台になっているが、1995年刊行の『仙台駅殺人事件』も、松島海岸が舞台になっている。
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