初版発行日 1984年8月10日
発行出版社 新潮社
スタイル 短編集
私の評価
旅情とロマンあふれる舞台に展開する殺人事件を通して、現代人の皮肉な人生を写し出すトラベル・ミステリー5編。
あらすじ
1.友よ、松江で
警視庁捜査一課の小川刑事は、高校時代の同級生で命の恩人である江上健一郎から「助けてほしい」と手紙が送られてくる。命の恩人を助けるために松江へ向かった小川は、殺人容疑で逮捕された江上の無実を証明するために独自で捜査を開始する。「あいつは人を助けることがあっても、殺すことはできない奴だ」。小川はそう信じて、奮闘した結果、江上の無実が証明され釈放された。が、その後、十津川警部から電話が入り、衝撃の事実を知らされる……。
2.特急「富士」殺人事件
十津川警部の大学時代の友人・池内晋平が、妻の急死を機に会社を辞めて、故郷の宮崎へ帰ることになった。東京駅発の寝台特急「富士」に乗って宮崎へ行くという。十津川は、同級生で友人の記者・田島とともに、東京駅へ池内の見送りに行ったが、寝台特急「富士」の車内で死体が発見される。その後、銀座のホテルで池内の上司だった男の死体も発見され、十津川は池内に疑惑の目を向けることになる……。
3.展望車殺人事件
大井川鉄道のSL急行「かわね路」号展望デッキから女性客が姿を消した。翌日、大井川河畔で溺死体で発見されるが、彼女は東京で起こった宝石商殺しの容疑者と判明。犯行を苦にした自殺か?目撃証言から静岡県警は他殺の線を否定。だが偶然同乗していた亀井刑事の話から、十津川警部は重大な不審点に気づく。事件には周到な罠が!
4.死を運ぶ特急「谷川5号」
売れないデザイナーの仁科貢は、殺害計画をたてていた。自分を無下に扱う有名デザイナー・林一郎を殺害し、自分を騙して新進デザイナーとして注目される前田哲夫に罪をかぶせるという計画だ。仁科は特急「谷川号」と「白根」号が、新前橋駅で切り離されることを利用したトリックを使い、林を殺害した!
5.復讐のスイッチ・バック
経営コンサルタントの羽田明は、熊本での仕事を終えた後、阿蘇へ出かけることにした。熊本から阿蘇へ向かう急行「火の山5号」に乗った羽田だが、向かいの席に座っていた女性が毒殺されていた。熊本県警の刑事は、羽田を容疑者として連行する……。
小説に登場した舞台
1.友よ、松江で
- 寝台特急「出雲1号」
- 松江駅(島根県松江市)
- 宍道湖(島根県松江市)
- 出雲大社(島根県出雲市)
- 日御碕(島根県出雲市)
- 大社駅(島根県・大社町)
2.特急「富士」殺人事件
- 寝台特急「富士」
- 東京駅(東京都千代田区)
- 熱海駅(静岡県熱海市)
- 宮崎空港(宮崎県宮崎市)
3.展望車殺人事件
- 東京駅(東京都千代田区)
- 金谷駅(静岡県島田市)
- SL急行「かわね路」号
- 下泉駅(静岡県・川根本町)
- 千頭駅(静岡県・川根本町)
- 関の沢橋梁(静岡県・川根本町)
- 井川駅(静岡県静岡市葵区)
- 富士見峠(静岡県静岡市葵区)
4.死を運ぶ特急「谷川5号」
- 上野駅(東京都台東区)
- L特急「谷川5号」
- 新前橋駅(群馬県前橋市)
- 長野原草津口駅(群馬県・長野原町)
- 大宮駅(埼玉県さいたま市大宮区)
- 草津温泉(群馬県・草津町)
5.復讐のスイッチ・バック
- 急行「火の山5号」
- 熊本駅(熊本県熊本市西区)
- 肥後大津駅(熊本県・大津町)
- 立野駅(熊本県・南阿蘇村)
- 赤水駅(熊本県阿蘇市)
- 羽田空港(東京都大田区)
- 阿蘇くまもと空港(熊本県・益城町)
登場人物
1.友よ、松江で
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 小川:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。高校時代の命の恩人からの知らせを受け、3日間の休暇をとって松江へ向かう。 - 江上健一郎:
小川の高校時代の同級生で命の恩人。東西相互銀行に勤務。 - 中西:
島根県警の警部。 - 岡村明:
37歳。東西相互銀行の貸付課長。江上健一郎の上司。会長・岡村祐一郎の遠戚。大社駅前で警官と撃ちあいになり射殺された。 - 外村久仁子:
25歳。東西相互銀行の行員。江上健一郎の恋人だが、岡村明の愛人でもあった。日御碕の海岸で死体となって発見された。
2.特急「富士」殺人事件
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 池内晋平:
42歳。十津川警部の大学時代の友人。大洋商事の第一営業部長だったが、妻の急死をきっかけに会社を退職し郷里の宮崎へ帰ることに。 - 池内雅子:
池内晋平の妻。一ヶ月前に自殺した。 - 田島:
中央新聞社会部の記者。十津川警部の大学時代の友人。 - 長谷川淳:
35歳。浜井証券の営業課長。別府の生まれ。寝台特急「富士」の車内で毒殺死体となって発見された。 - 前島:
浜井証券の営業部長。 - 矢木明宏:
49歳。大洋商事の重役。池内の上司。銀座の東日ホテルで死体となって発見された。 - 青木:
警視庁機動捜査隊の刑事。 - 鈴木:
警視庁の鑑識技官。 - 藤沢秀介:
目黒にある藤沢書店の店主。
3.展望車殺人事件
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 亀井健一:
亀井刑事の息子。 - 亀井公子:
亀井刑事の妻。 - 板倉俊介:
50歳。銀座の宝石商。資産家。千代田区麹町の高級マンションに在住。自宅のベッドの上で死体となって発見された。 - 板倉涼子:
24歳。板倉俊介の娘。売れないデザイナー。四谷のマンションに在住。SL急行「かわね路」号に乗っていたが、転落死した。 - 羽田:
静岡県警捜査一課の刑事。 - 金子良治:
SL急行「かわね路」号の乗客。三鷹駅近くのマンションに在住。かつて板倉俊介が営む銀座の宝石店で働いていた。深大寺近くの雑木林で死体となって発見された。 - 小野田康夫:
板倉俊介の親戚。 - 小野田由郎:
小野田康夫の弟。 - 花田:
警視庁初動捜査班の警部。 - 大西次郎:
フリーカメラマン。田園調布のマンションに在住。丸子多摩川で死体となって発見された。
4.死を運ぶ特急「谷川5号」
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 仁科貢:
28歳。売れないデザイナー。下高井戸のマンションに在住。 - 前田哲夫:
28歳。若手の新進デザイナー。仁科貢のデザイン学校時代の同級生。原宿のマンションに在住。 - 林一郎:
有名デザイナー。 - 矢木:
40歳。群馬県警捜査一課の部長刑事。 - 田辺:
群馬県警捜査一課の警部。 - 渡辺:
群馬県警捜査一課の刑事。 - 浅野さつき:
特急「白根」で仁科貢と話した女子大生。大宮市内に在住。 - 沢田美津子:
特急「白根」で仁科貢と話した女子大生。大宮市内に在住。
5.復讐のスイッチ・バック
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 羽田明:
40歳。経営コンサルタント。 - 三浦:
熊本県警の刑事。 - 清村ゆき:
28歳。M商事管理部長の秘書。世田谷区のマンションに在住。急行「火の山5号」の車内で何者かに毒殺される。 - 青木徹:
49歳。M商事管理部長。 - 関口文武:
45歳。熊本県出身の代議士。 - 関口君子:
38歳。関口文武の妻。 - 井戸年次:
関口君子の弟。
印象に残った名言、名表現
なし。
感想
本作は、5作品を収録した短編だが、第1作から第4作までは、秀作だったと思う。
時刻表トリック、自殺に見せかけるために仕組まれた壮大なトリック、特急谷川と白根の切り離しを利用したアリバイ工作、犯人側の視点で殺人現場を描いた後、十津川警部の視点に切り替わる方式など、いろいろな小技や志向が楽しめる。
だが、5作目の「復讐のスイッチ・バック」だけが残念であった。なぜか、非常に読みづらい。「本当に西村京太郎先生が書いた作品なのだろうか?」と思えるくらい、冗長であり、回りくどい表現も多かった。
この1作を除けば、非常にレベルの高い短編集だったと思う。
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