初版発行日 2008年3月1日
発行出版社 文藝春秋
スタイル 長編
私の評価
被害者の異様な姿に混乱する十津川警部!殺された女性の顔には鍋がかぶせられていた!さらなる殺人現場には釜が。猟奇殺人か!?十津川は米原で行われる奇祭に関連性を見出したが…。
あらすじ
人気女優の吉川香里が六本木のホテルの一室で殺された。死体の顔の部分には鉄製の鍋がかぶせられていた。それに次いでクラブのママ・石黒和子が殺され、彼女の顔には今度は紙製の釜がかぶせられていた。さらには結婚式を翌日に控えた浅野由香里が深夜、多摩川べりで殺され、現場には奇妙な和歌が書かれた紙が残されていた。ここに至って十津川は、米原市の筑摩神社で行われる「鍋冠祭り」がこの事件と何らかの関連があると、現地に赴く。やがて見えてきた犯人の恐るべき殺人の動機とは!?
小説の目次
- 死の装飾
- 悪の三角形
- 伊勢物語の頃
- つれなき人
- 第四の殺人
- 関係者
- 最後の祭
冒頭の文
中村圭介は、深夜の東名を、時速百キロから百五十キロの猛スピードで、東京に向けて飛ばしていた。吉川香里との、デートの時間に、すでに、三十分近く遅れてしまっているからである。
小説に登場した舞台
- 米原駅(滋賀県米原市)
- 筑摩神社(滋賀県米原市)
- 日比谷公会堂(東京都千代田区)
- 雄琴(滋賀県大津市)
- 晴海埠頭(東京都中央区)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 松木:
警視庁の検死官。 - 滝田:
警視庁初動捜査班の警部。 - 本城:
滋賀県警捜査一課の警部。 - 吉田:
滋賀県警捜査一課の刑事。
事件関係者
- 吉川香里:
35歳。売れっ子女優。Tプロダクション所属。成城学園のマンションに在住。本名は加藤佳子。六本木のホテルKで死体となって発見された。 - 石黒和子:
32歳。赤坂にあるクラブのママ。目黒のマンションに在住。自宅マンションで死体となって発見された。 - 浅野由香里:
28歳。浅野夫妻の娘。浅野茂光の秘書。多摩堤通りに停まっていたベンツの中で死体となって発見された。 - 行方貞晴:
四谷にある法律事務所の所長弁護士。 - 入江隆夫:
28歳。行方法律事務所に勤務。弁護士資格の勉強中。 - 渡辺純子:
30歳。大津市内のマンションに在住。雄琴のソープランドに勤務。筑摩神社の境内で死体となって発見された。 - 草野誠:
35歳。京都の会社に勤務。渡辺純子殺害容疑で逮捕された。 - 早川慎太郎:
62歳。浅草にある老舗天ぷら屋の店主。かつて、吉川香里に騙されて搾取された映画製作費用5千万円で行方法律事務所に民事訴訟を相談していた。 - 山下四郎:
山下玩具の元社長。かつて石黒和子と親しくなって結婚したが、石黒和子の浪費癖に辟易して離婚調停をするために、行方法律事務所に民事訴訟の相談をしていた。 - 榊原絵里子:
34歳。自称経営コンサルタント。
その他の登場人物
- 中村圭介:
22歳。若手俳優。 - 新井:
30歳。Tプロダクションのマネージャー。 - 近藤:
Tプロダクションの社長。吉川香里と肉体関係があった。 - 小田:
芸能記者。 - 川口和彦:
20歳。若手俳優。 - 片山栄一:
23歳。元テニスプレイヤー。 - 長谷川清美:
赤坂にあるクラブのママ。 - 小早川:
代議士。石黒和子と親しくしていた。 - 菊池:
週刊Kの記者。 - 島田洋二:
45歳。最近まで石黒和子のクラブでマネージャーをしていた男。 - 浅野茂光:
60歳。浅野貿易の社長。浅野由香里の父親。 - 浅野多恵子:
53歳。浅野茂光の妻。九州出身の代議士の娘。 - 浅野英美:
浅野由香里の妹。 - 荒木知也:
32歳。財務省の課長。浅野由香里の婚約者。 - 野村敬子:
浅野由香里の大学時代の同級生。ファッション関係の仕事をしている。 - 崎田:
S大学の助教授。国文学専攻。 - 藤原信介:
30歳。元国土交通省の職員。退職後、父親の会社「藤原電機」を継いで社長に就任。 - 細川正夫:
50歳。行方法律事務所に勤務する弁護士。 - 梅沢智子:
41歳。行方法律事務所に勤務する弁護士。 - 木内:
行方法律事務所に勤務する弁護士。 - 小山:
外務省の職員。藤原信介の友人。 - 小暮秀行:
ピアニスト。入江隆夫の友人。 - 林:
渡辺純子が働いていた雄琴のソープランド「歌麿」の店長。 - 中島敬太郎:
京都にある病院の院長。渡辺純子の馴染み客。 - 工藤光一:
50歳。工藤建設の社長。榊原絵里子を詐欺で告訴した。 - 原田守:
50歳。原田工務店の社長。榊原絵里子を詐欺で告訴した。 - 桜井:
日本探偵社の社長。
印象に残った名言、名表現
(1)鍋冠祭りの由来。
「この鍋冠祭りの行われる、琵琶湖の湖岸の筑摩神社ですが、祭神は、食事を司る神様です。昔は、あの地方には、田畑が広がっていて、村人たちが、筑摩神社で、五穀豊穣を祈ったといわれています。それが、いつからか、鍋冠祭りといわれるようになってしまったのは、例の鍋やお釜を被った娘たちが、行列することから、そちらのほうに、関心を持たれてしまったのだと思われます」
(2)鍋冠祭りのしきたり。
鍋冠祭りの女性は、しとねを重ねた男の数だけ鍋を被って渡御することになっていた。もしも、その数をごまかすと、神罰たちまち下り、全身しびれるか、被っている鍋が、壊れてしまう。
感想
本作は、十津川警部・祭りシリーズ第7弾である。
- 「祭りの果て、郡上八幡」(2001年刊行)
- 「風の殺意・おわら風の盆」(2002年刊行)
- 「祭ジャック・京都祇園祭」(2003年刊行)
- 「鎌倉・流鏑馬神事の殺人」(2004年刊行)
- 「青森ねぶた殺人事件」(2005年刊行)
- 「十津川警部 海峡をわたる」(2006年刊行)
- 「奇跡の果て 鍋かむり祭の殺人」(2008年刊行)
まず、本作のタイトルは、「奇祭の果て 鍋かむり祭の殺人」である。「鍋冠祭りの殺人」ではないところがミソである。
私は本書のタイトルを見たときに、こう思った。「鍋冠祭りを舞台に、この祭りの舞台で起こる殺人事件であろう」と。
だが、実際はそうではない。
確かに、「鍋冠祭り」の次のようなしきたりを意識していた。
鍋冠祭りの女性は、しとねを重ねた男の数だけ鍋を被って渡御することになっていた。もしも、その数をごまかすと、神罰たちまち下り、全身しびれるか、被っている鍋が、壊れてしまう。
平たく言うと、”お盛んな女”が罰せられるようなしきたりであったのだ。
だから、今回の犯人は、お盛んな女に罰を与えるために、殺人事件を起こしたということになる。そして、被害者の顔に鍋やお釜をかぶせたのである。
つまり、鍋冠り祭りのしきたりを模した殺人事件なのだ。
確かに、本作では、鍋冠祭りの紹介や説明があるし、祭りがお壊れる筑摩神社も登場した。あまり知られていないお祭りだから、これを読めば勉強にはなる。
だが、事件そのものは、お堅いのだ。
こうした祭りを題材にしたのだから、幻想的なシーンを登場させてほしかった。事件そのものに、”妖しさ”の要素を入れてほしかった。
本作は、ここが非常に残念である。
祭りシリーズの中では、2002年刊行の「風の殺意・おわら風の盆」がベストだったと個人的には思う。
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