初版発行日 2002年2月15日
発行出版社 文藝春秋
スタイル 長編
私の評価
十津川警部の推理が冴える!写真家殺害事件を捜査する十津川警部は、三年前に八尾町の「おわら風の盆」で起きた悲しい出来事との関連性を見出すがー。
あらすじ
カメラマンの田村は、謎の失踪を遂げた恋人の行方を追う中で、一枚の写真を発見した。そこには富山県八尾町で毎年行われる「おわら風の盆」で踊る彼女の姿があった。撮影者を探す田村。しかしその写真を撮った三浦は沖縄で殺されていた!三浦殺しを捜査する十津川警部はその過程で田村に出会う。十津川と田村はやがて三年前に起きた八尾町の悲しい殺人事件の秘密に行き当たる。沖縄と八尾の二つの殺人事件に関連はあるのか?
小説の目次
- 失踪
- 一枚のポスター
- 胡弓の音
- 幽霊
- ドラマ始まる
- 告白
- 風に吹かれて
冒頭の文
田村誠は、彼女の消えた部屋に、呆然と立ちつくしていた。
小説に登場した舞台
- 富山きときと空港(富山県富山市)
- 八尾町(富山県富山市)
- 曳山展示館(富山県富山市)
- 十三石橋(富山県富山市)
- 禅寺橋(富山県富山市)
- 和倉温泉(石川県七尾市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
警察関係者
- 今井:
八尾警察署の刑事。 - 吉田:
八尾警察署の巡査部長。 - 木村謙介:
八尾警察署の巡査。
事件関係者
- 田村誠:
カメラマン。 - 山口美雪:
新宿に本社のあるTR企画に勤務するインテリアコーディネーター。永福町のマンションに在住。田村誠の恋人。突然、行方不明になる。 - 三浦利也:
35歳。カメラマン。昨年の9月、沖縄で事故死したとされたが、殺されたことが判明。 - 小田守:
60歳。写真家。八尾在住で、八尾の町の写真を撮っている。 - 小田保子:
小田守の妻。 - 木村鉄也:
八尾の旧家。山口美雪の婚約者だったが、3年前、何者かに殺された。 - 秋山真二:
俳優。八尾の町で制作される映画の主演。 - 酒田えりか:
女優。八尾の町で制作される映画のヒロイン。 - 大塚:
映画監督。八尾の町で制作される映画の監督。
その他の登場人物
- 安田:
新宿のバー「ミラージュ」のバーテン。 - 根本:
カメラマン。田村誠の友人。 - 三浦弘子:
三浦利也の妻。三鷹に在住。 - 安田:
八尾観光協会の課長。 - 高見専一郎:
八尾新報の記者。 - 君香:
和倉温泉の芸者。 - 根本:
弁護士。
印象に残った名言、名表現
(1)八尾町。
町全体が、昔の良き時代を、そのまま残している感じだった。低い家並が、坂の両側に続くのだ。
(2)おわら風の盆の風景。
地方が、二、三人で、三味線と、胡弓を、つかれたように弾きながら、夜の町を、さまようように、歩いて行く。地方には珍しく、女性の名手が、胡弓を弾き、つややかなのどを聞かせて、歩く姿もあった。
まるで、夜の町で、名人芸の競演といった感じがする。
街灯と、月明りだけが残った通りに、ふっと、三味線と、胡弓の音が、聞こてくる。おわら独特の、甲高く、息つぎのない唄も、ついてくる。
何処が、幻想的な光景だった。
(3)おわら風の盆の音。
遠くから、祭りの音が、聞こえてくる。
三味線の音、胡弓の調べ、太鼓のひびき、踊り手の足音、手拍子、そして、唄。
感想
本作は、十津川警部・祭りシリーズ第2弾である。
- 「祭りの果て、郡上八幡」(2001年刊行)
- 「風の殺意・おわら風の盆」(2002年刊行)
- 「祭ジャック・京都祇園祭」(2003年刊行)
- 「鎌倉・流鏑馬神事の殺人」(2004年刊行)
- 「青森ねぶた殺人事件」(2005年刊行)
- 「十津川警部 海峡をわたる」(2006年刊行)
- 「奇跡の果て 鍋かむり祭の殺人」(2008年刊行)
今回は、八尾町のおわら風の盆をテーマにしたものであるが、美しい八尾の町や幻想的なおわら風の盆の祭りの様子が、丁寧に描かれている。また、幻想的で妖しげな雰囲気が、物語全体にただよっていたのも良い。それだけでも異色のミステリーといえるだろう。
おわら風の盆に現れる幽霊、映画のロケハンにきた主演、ヒロイン、監督が突然消えてしまった事件など、妖しげな雰囲気に拍車をかけるエピソードもふんだんに用意されていた。
また、地方の町にある団結力。そこからくる排他性も、今回の事件に深く影響している。それを表しているのが、下の一節である。
古い町には、その町の歴史があって、他所者を、簡単には、受け入れてくれないからだ。この八尾の町にも、十津川は、そんな雰囲気を感じるのだ。
ネタバレになってしまうかもしれないが、今回の事件は、十津川が解決したわけではない。大げさに言えば、八尾の町が解決したのである。十津川は、八尾の町がどうやってこの事件を解決したのかを推理しただけなのである。
今回の作品は、十津川警部祭りシリーズのなかで、もっとも祭り色が出た、秀作だと思う。
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