初版発行日 2003年2月15日
発行出版社 文藝春秋
スタイル 長編
私の評価
十津川警部、犯人に敗北す!?「祭り」シリーズ第3弾。
あらすじ
「祇園祭を爆破する」ー。手紙は十津川警部を陥れる罠だった。京都に向かった十津川を待ち受ける犯人の奷計。警部は爆破犯に仕立てられ京都府警に捕まり、直子夫人までが誘拐される。絶体絶命の窮地にたたされた十津川警部。犯人の異常な悪意の裏には何があるのか?
小説の目次
- くじ改め
- 対決
- ラジコン
- キッドナップ
- 古都の入口
- 怨念の都
- 生死の境から
冒頭の文
六月三十日、十津川は一通の手紙を受け取った。差出人の名前はない。
小説に登場した舞台
- 京都駅(京都府京都市下京区)
- 四条烏丸(京都府京都市下京区)
- 四条河原町(京都府京都市下京区)
- 八坂神社(京都府京都市東山区)
- 烏丸通り(京都府京都市下京区)
- 三条東洞院(京都府京都市中京区)
- 清水寺(京都府京都市東山区)
- 木屋町(京都府京都市下京区)
- 渡月橋(京都府京都市右京区)
- 六道の辻(京都府京都市東山区)
- 東福寺天得院(京都府京都市東山区)
- 上御霊神社(京都府京都市上京区)
- 嵯峨野(京都府京都市右京区)
- 鞍馬寺(京都府京都市左京区)
- 貴船(京都府京都市左京区)
- 六道珍皇寺(京都府京都市東山区)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 橋本:
京都府警の警部。 - 矢内原:
京都府警の警部。 - 前田:
京都府警爆発物処理班のリーダー。 - 十津川直子:
十津川警部の妻。
事件関係者
- 小池茂:
京都市長。 - 寺本:
京都市長の秘書。 - 東田:
長刀鉾町の助役。 - 中村:
月鉾町の町会長。 - 木村:
六角通烏丸入ルにある京菓子「木村屋」の主人。 - 木村恵子:
木村の妻。 - 木村大介:
木村夫妻の息子。小学五年生。誘拐される。 - 崎田:
十津川警部の大学時代の同級生。京都在住。今月の十五日に自殺と見せかけて殺された。 - 崎田美香:
崎田の妻。 - 泉章夫:
心は女だが男として生まれてきた男。
その他の登場人物
- 渡辺:
京都生まれ京都育ちの大学教授。 - 滝本良介:
36歳。祇園のビルで天ぷら専門店「たきもと」を営む。
印象に残った名言、名表現
(1)辻廻し。
四条河原町の十字路には何本もの青竹が敷かれ、その上に水が撒かれていた。いよいよ山鉾巡行のクライマックスといわれる辻廻しが、始まろうとしているのだ。水にぬらした青竹の上で、長刀鉾の直径二メートルの大きな車輪四つを、滑らせるようにして、九十度、方向転換させようとしているのである。
(2)やる側とやられた側。
池に小石を投げた人間は、ただのいたずらで、すぐ忘れてしまうが、池のカエルにとって、命にかかわる災難だという話である。カエルは、その石が当れば、死んでしまうからだ。
(3)京都に移り住んだよそ者が辿る二つのパターン。
他所から京都へ引っ越した人間は、二つに分れるといわれる。片方は京都が気に入って、のめり込んでいくが、もう片方は京都に反撥し、京都に冷たいという。それだけ京都が、他の町と違うということなのだろう。
感想
本作は、十津川警部・祭りシリーズ第3弾である。
- 「祭りの果て、郡上八幡」(2001年刊行)
- 「風の殺意・おわら風の盆」(2002年刊行)
- 「祭ジャック・京都祇園祭」(2003年刊行)
- 「鎌倉・流鏑馬神事の殺人」(2004年刊行)
- 「青森ねぶた殺人事件」(2005年刊行)
- 「十津川警部 海峡をわたる」(2006年刊行)
- 「奇跡の果て 鍋かむり祭の殺人」(2008年刊行)
本作は、西村京太郎先生が暮らしていた、京都が舞台になっているからなのか、京都についての説明が、いつもに増して力が入っていたように思う。京都の街や歴史、祇園祭についての説明が、至るところでされていた。
そして、十津川警部シリーズでは珍しく、十津川が犯人に何度も敗北を重ねるのだ。連戦連敗の十津川も、怒りを抑えることができなかった。
十津川は、自分に腹を立てていた。もちろん、犯人にも腹を立てていた。怒りが二重になって、彼の眼を険しくしていた。
事件の結末の見方について、多種多様な見方があると思うが、十津川は最後まで犯人に負けてしまったのではないか?とわたしは思っている。
犯人は、十津川に敗れたのではなく、自ら、事件の幕を引いたのである。
そして、本作の最後となる、この一文が、なんとも物哀しい。
必死になって、女になろうとした男と、その相手を愛した男の葬儀である。
コメント