初版発行日 2006年2月10日
発行出版社 文藝春秋
スタイル 長編
私の評価
十津川警部、韓国へ!祭りの最中に起きる連続殺人事件。捜査の末、韓国で行われる「春香祭」が次の殺人の舞台とにらんだ十津川だがー。
あらすじ
二年前から祭りの最中に、若い女性ばかりを殺害する連続殺人事件が起きていた。犯人は『蒼き狩人』と名乗り、捜査陣を翻弄する。そして新たな殺人を予告する挑戦状を警視庁に送りつけてきた!十津川たちは必死の捜査の末、次の殺人が韓国南原市で開催される『春香祭』で実行されると推理し、韓国へ飛ぶが……。
小説の目次
- 狩りの季節
- 刑務所からの手紙
- ハングルの国
- 南原
- 新たな展開
- 対決
- 最後の賭け
冒頭の文
八王子市内の交番に勤める、若い安井巡査は、三月十三日、去年と同じように、これから行われる、高尾山薬王院の祭りの警備に出かけた。
小説に登場した舞台
- 高尾山薬王院(東京都八王子市)
- 大阪刑務所(大阪府堺市)
- 羽田空港(東京都大田区)
- 金浦国際空港(大韓民国ソウル特別市)
- 龍山駅(大韓民国ソウル特別市)
- KTX
- 光州駅(大韓民国光州市)
- 明洞(大韓民国ソウル特別市)
- 南大門(大韓民国ソウル特別市)
- 梨泰院(大韓民国ソウル特別市)
- 南原市(大韓民国南原市)
- 広寒楼(大韓民国南原市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 安井:
八王子市内の交番に勤める巡査。 - 木村:
八王子市内の交番に勤める巡査長。 - 北原:
埼玉県警の警部。 - イノウエ:
ホノルル警察の日系二世の刑事。 - キム:
25歳。在日韓国人。十津川警部たちに同行する通訳。日本名、金子晴美。
事件関係者
- 小池裕子:
当時24歳。2年前の深川祭りの最終日、隅田川のほとりにある公園で刺殺された。 - 青木みどり:
当時25歳。Nデパートに勤務するOL。2年前の秩父の夜祭りの後、刺殺された。 - 戸沢玲香:
当時22歳。東京・北千住に住むフリーター。2年前、川越祭りの後、刺殺された。 - 菊池典子:
当時21歳。東京のN大学の学生。去年の12月、ハワイのホノルルのクリスマスパーティーの帰り道で刺殺された。 - 佐野亜紀:
21歳。東京八重洲口にある化粧品会社に勤めるOL。高尾山の大火渡り祭りの後、薬王院広場で刺殺された。 - 北川広明:
大阪刑務所に服役している男。無期懲役。 - 滝川修:
35歳。大学助教授。犯罪心理学が専門。北川広明の診察にあたっていた。アメリカに留学経験があり、英語も堪能。 - 中野多恵子:
春香祭に訪れていた日本人女性。 - 池西香織:
春香祭のミスコンテストで準優勝した女性。 - 滝川五郎:
29歳。春香祭に訪れていた男。
その他の登場人物
- 戸沢文子:
戸沢玲香の母親。 - 原田透:
上野にあるクラブのマネージャー。戸沢玲香の恋人だった。 - 滝川邦子:
59歳。滝川修の母親。
印象に残った名言、名表現
(1)東京都民が知らない、高尾山のもう一つの顔。
高尾山は、東京の外れにあって、観光客が集まる、憩いの場ではあるが、しかし、その一方で、天平十六年、西暦七四四年に聖武天皇の勅願所として開山した、修験道の道場でもある。
(2)富岡八幡宮の深川祭り。
東京三大祭りの一つで、通称、水掛け祭り。夏の真っ盛りに、大きな神輿を担ぐので、汗が出る。そこで、神輿の沿道に、各町内で、たらいやバケツに、水を満たしておいて、神輿がやってくると、一斉に水を掛けるのだ。
(3)都市化が進む韓国。
十五年前には、車窓の田園風景は、長く、広かった。それが、今は、田園風景の中に、突然、蜃気楼のように、超高層ビルのかたまりが、浮かびあがってくるのである。
(4)外国を訪れる場合は、日本との歴史的な背景を、抑えておく必要がある。
「この南原が十六世紀には、日本の軍隊、秀吉の軍隊に占領されたことだ。その戦いで一万人もの韓国の人々が、死んでいるということだ。この街には、その犠牲者たちを祀った、万人義塚と呼ばれるものがある。明日は、賑やかな愛のお祭りだから、われわれが、日本人だと知っても、昔の戦いのことを、問題にする人は、いないだろう。そう思うが、一応、南原という街が、そういう歴史的な背景のある街だということも、心得ていて欲しい」
感想
本作は、十津川警部・祭りシリーズ第6弾である。
- 「祭りの果て、郡上八幡」(2001年刊行)
- 「風の殺意・おわら風の盆」(2002年刊行)
- 「祭ジャック・京都祇園祭」(2003年刊行)
- 「鎌倉・流鏑馬神事の殺人」(2004年刊行)
- 「青森ねぶた殺人事件」(2005年刊行)
- 「十津川警部 海峡をわたる 春香伝物語」(2006年刊行)
- 「奇跡の果て 鍋かむり祭の殺人」(2008年刊行)
この祭りシリーズは、ミステリーとしても、民俗レクチャーとしても、評価が高く、人気シリーズである。
今回の「十津川警部 海峡をわたる」も、韓国で有名な春香祭が舞台になっており、この祭りの概要から、その様子まで、その雰囲気を存分に味わうことができる。
また、ミステリーとしても、良作だった。
とにかく、犯人が異常すぎる。今回はそれに尽きる。まず、犯人から届いた、警察へのメッセージ。
<私は、楽しい狩りを行っている。獲物は、若い女性たちである。君たち警察に、私が捕まえられるかね?私は、これからも、この、心震える狩りを、続けていきたいと思っている>
<君たち警察が、本気で、私を捕まえようとするのならば、もっと大きな、視野を持たなければ、私は捕まらんよ>
自信満々に、警察への挑戦状ともとれるメッセージを送っている。
十津川も、この犯人について、次のような、印象をもっていた。
「この男は、自己顕示欲の、塊みたいな奴なんだ。たぶん、ひどい、ナルシストだと思うね。そんな男が自ら宣言したことを、撤回するとは、思えない」
「明らかに、われわれに、挑戦しているんだ。だから、この犯人は、宣言した通りに、殺人を、実行するに違いない。私は、そう考えている」
こうした異常な犯罪者を分析する犯罪心理学が、本作に幾度となく、登場する。そして、この犯罪心理学が、事件の核心にもなっている。
どこが核心なのか?それは、本作のお楽しみである。
ちなみに、十津川警部シリーズで、海外が舞台になった作品が、いくつかある。例えば、2005年刊行の「韓国新幹線を追え」、2016年刊行の「愛と絶望の台湾新幹線」がある。
海外が舞台の作品は、珍しいので、こちらもぜひ、読んでもらいたい。
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